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壁抜けの魔法は世界の法則そのものだった
完璧な障壁だけが完璧な音を伝達できる

壁抜けの魔法は世界の法則そのものだった

壁を100%すり抜ける音が確認される! 不思議な「クラインのトンネル効果」を初めて実証
(画像=クラインのトンネル効果が起きると反粒子状態で壁を通過する / Credit:ナゾロジー、『ナゾロジー』より引用)

今回の不思議な壁抜け現象を電子とグラフェン(壁)を用いた実験で代用すれば上の図のようになります。

グラフェンは炭素が結びついてできた薄いシートであり、電子を遮断する効果があります。

飛んできた電子がグラフェンの壁にあたると、壁の内部で電子は反粒子(陽電子)に変化し、エネルギー的に高い峠であるグラフェンシート内部を反対のエネルギーを帯びながら通過します。

そして壁を抜けると同時に再び電子にチェンジ、再変身するのです。

今回の実験では、電子とグラフェンの代わりに、より身近な音と音の絶縁壁(フォノン結晶)が用いられました。

音の最小単位であるフォノン(音子:準粒子の一種)も電子と同様に、壁に命中すると反フォノンに変化して抜けられないはずの壁を抜けると、再び通常のフォノンに戻って飛んでいきます。

巨視的な空気の振動である音と微視的な電子が同じように壁抜けを行う事実は、波の性質を持つ物理現象にとって壁という概念は、巨視的にも微視的にも無力であることを示します。

どうやら私たちの住む宇宙では、波の性質を持つ存在はどんなに完璧な遮断をほどこしても(むしろ完璧なほど)壁抜けしていく性質を持っているようです。

つまり、不思議な壁抜け魔法は、私たちの宇宙そのもののが帯びている性質にあったのです。

完璧な障壁だけが完璧な音を伝達できる

壁を100%すり抜ける音が確認される! 不思議な「クラインのトンネル効果」を初めて実証
(画像=完璧な音の伝導は強固な壁によってのみ達成される / Credit:Canva、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究により、音の壁抜け現象が明らかになりました。

現在の音響技術ではどんなに高精度なものでも、音のエネルギーは伝達によって損なわれてしまいます。

ですが今回の研究成果を応用すれば、強固な音の壁を作ることで、逆に音を100%の効率で反対側に伝達することが可能になります。

これは音響通信の効率を劇的に向上させ、全く新しい概念の音響機械の開発につながります。

研究チームが現在目をつけているのは、医療に用いられる超音波診断です。

障壁となる生体組織を通過する超音波の精度を上げることができれば、臓器などの状態をより精彩に観察することが可能になるからです。

また音(フォノン)の制御から得られた技術を光や電子の制御に還元することができれば、画期的な電子機器や光学機器の開発につながると考えられます。

もしかしたら未来の世界で最高性能のイヤフォンやヘッドフォンは、音を絶縁するフォノン結晶で作られてるかもしれませんね。


参考文献

sciencedaily


提供元・ナゾロジー

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