先日、与野党および無所属の国会議員からなる「子どもへのワクチン接種とワクチン後遺症を考える超党派議員連盟」が発足しました。発起人として連盟に名を連ねる議員を以下に記します。
衆議院議員:阿部知子、源馬謙太郎、多ヶ谷亮、辻清人、中島克仁、野間健、山田勝彦
参議院議員:川田龍平、須藤元気、芳賀道也
連盟設立の会合が6月9日に衆議院第一議員会館で行われました。会合には、参政党のボードメンバーである松田学氏、同党のアドバイザーである井上正康氏(大阪市立大学名誉教授)等も参加していました。また、井上正康氏、名古屋大学名誉教授の小島勢二氏、泉大津市長の南出賢一氏によるスピーチがあり、私も発言を求められたので、一言述べました(後述します)。
以下、連盟について私の個人的な感想を記す、あるいは問題提起します。
連盟発足の時期について
本連盟の発足が2022年の6月であることについては、様々な意見が聞かれます。産経新聞の記事等によれば、連盟の名称として当初「子どもへのワクチン接種を慎重に考える超党派議員連盟」が予定されていました。
新型コロナに関連する子どもの死亡率は、「強毒」と評されたデルタ株が蔓延し子ども人口への接種が始まった2021年の夏と現在とで大差はありません。また、昨年接種が始まった12~18歳と今年接種が始まった5~11歳とでウイルスによる重症化リスクが大きく異なるものでもありません。
重症化しやすい年齢層や個人においては、慎重に考える余裕がなく接種の判断を急ぐ/促す必要があるとも考えられますが、そうでない18歳以下については、昨年も慎重に考える余裕がありました。
ウイルスによる子どもへの疾病負荷が現在と大差なく、伝染抑制に関する(社会的な)ワクチンの効果が疑問視/問題視されていた昨年、日本では、教育機関等での強大な同調圧力、接種者あるいは非接種者への差別・偏見、養育者による不十分な認識に基づく接種/非接種の判断、医学的に誤った情報に基づく子どもの接種の推奨/非推奨が横行していました。
慎重な判断を促すのであれば、国会議員が協力し問題提起すべき時期は、昨年、子どもの接種について非医学的、不適切、あるいは不法な言動が横行していた時期であったかも知れません。
なお、Think Vaccineが昨年9月に医学者、政治家、防災学者、学生、ジャーナリストと共にシンポジウム「若い世代のワクチン接種 多角的に考える接種の意義とリスク・ベネフィット」を開催した理由は、非医学的、不適切、あるいは不法な言動がはびこる状況下、多角的な議論が問題を内側から解決するきっかけになると考えたからです。
以来、約9カ月が経過しましたが、未だ議論が十分とは言えない状況です。
連盟が拠り所とする科学的知見について
連盟設立には、民間団体「子どもへのワクチン接種を慎重に考える会」(前述の松田氏および井上氏が共同代表)が関与しています(子供へのワクチン接種を考える勉強会(産経新聞))。
井上氏は、著書「新型コロナ騒動の正しい終わらせ方」や講演会等において、大半の日本人は新型コロナウイルスへの感染歴を有すると述べています。また、これに基づき、大半の日本人は既に新型コロナウイルスに対する免疫を有するとし、新型コロナワクチンやマスクの効能、意義に対し否定的な見解も示しています。 先日の会合では、井上氏、松田氏、川田氏、須藤氏、南出氏等は、屋内において近距離で会話する場合でもマスクを着用していませんでした。マスクを着用しないと判断する理由は一様ではありませんが、井上氏の主張に基づく判断である場合、その判断が適切であるかについて再考が必要と思われます(私は、マスク非着用自体を問題視するのではなく、非着用には科学的・社会的に十分な根拠が必要と考えます)。
2022年6月12日時点での日本の新型コロナ新規陽性者数の累計は約900万人です。抗ヌクレオカプシド(N)抗体の測定に基づく国立感染症研究所の調査によれば、感染歴/抗体を有する国民の割合は約4.3%である可能性があります。無症候のコロナ患者が多数おり、N抗体測定には精度に課題があるため、感染歴/抗体を有する日本人の実際の割合は、より高いとも考えられます。
一方、東京都における大規模抗体検査などに基づき、実際に感染歴のある人の数は、PCR検査で検出された陽性者の4倍程度とする試算や専門家の意見があり、新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードでも実際の感染者数を報告数の4倍とする見解が示されています。
Think Vaccineが2022年6月3日に開催したシンポジウム「新型コロナウイルスおよびウイルス対策について、子どもを中心に考える」において、日本人の感染歴に関し井上氏に尋ねたところ、日本人の殆どが感染歴を有するとの主張は、エビデンスというよりも氏の「考え」であるとの見解が示されました。実際、日本人の殆どが感染歴を有するとのエビデンスは、私が知る限り、存在しません。
仮に、前出の川田氏や南出氏がマスクを着用していなかった理由が、日本人の殆どが感染歴/コロナへの免疫を有するとの「考え」に基づく場合、マスク非着用は非科学的な行為と言えます。現在、日本社会全体において、マスク着用を含む感染対策の緩和を望む声が多く聞かれますが、対策の緩和が日本国民にもたらす影響については多角的な考察と議論が必要です。
日本における感染者数および死者数の割合が多くの国に比べて低いのが、日本人の感染歴ではなく、「過剰」とも評される日本の感染対策の結果である場合、感染対策の緩和は感染者数の増加および死者数の増加を招くことが予想されます。
以下の表に、各国における感染者数、死者数、致死率等の概数を記します。(ロイター通信(2022年5月13日時点)のデータに基づく(約一カ月前のデータです))
これによれば、日本人は、感染率が極めて低く、致死率は比較的高いと言えます。感染者=感染歴(抗体)を有する人、と見做し、実際の感染者数を820万人の4倍(=3280万人)と見積もっても、国民の30%程度しか抗体を有していないことになり、必ずしも、他国と比べ日本人は致死率が低い(日本人にはコロナへの免疫がある)とは言えない可能性があります(他国にも「検査漏れ」等の感染者はおり、実際の感染者数は上記表の感染者数より多い可能性があります)。
国民の多くに感染歴があるとのエビデンスが得られていない状態でマスク着用を含む感染対策を緩和させることは、危険ではないでしょうか。
なお、私個人としては、マスクやソーシャルディスタンス等が子どもの発育に与える悪影響(これを裏付けるエビデンスについては前述のシンポジウムのこの箇所以降(約30分間)をご参照下さい)や新型コロナによる子どもへの疾病負荷等を考慮し、子どもの社会においては感染対策を必要程度緩和すべきと考えます。
一方、大人の社会においては、日本人の感染歴についてより多くのエビデンスが得られるのを待ってから、規制緩和に関する議論を行うべきと考えます。