黒坂岳央(くろさか たけを)です。

「無能な働き者」につけたい3つの治療薬
(画像=haiyapruek2520/iStock、『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

昨今、プラゴミ問題が話題になっている。これまで無料配布してきたプラスチック製スプーンの「有料化」への動きがあり、国民からの強い反発を呼んだことで環境省へ苦情の電話が相次いているという。

個人的に興味深かったのは、この問題提起への反応にある種の共通点が見られたことだ。スプーン有料化を提起した人物に対して、「このような無能な働き者による愚策が、日本を滅ぼす!」といった強い論調で批判が巻き起こり、SNSを中心に「無能な働き者」というワードの合唱が起こっていた。

今回はこのスプーン有料化問題の是非はさておき、「無能な働き者」にキクことが期待できそうな3つの治療薬を論考したい。

無能な働き者とは何か?

この概念の出どころは、ゼークトの組織論からとされてされる。軍人には以下4つのタイプがあるという話で、無能な働き者もその1つである。

  • 有能な怠け者は指揮官にせよ
  • 有能な働き者は参謀に向いている
  • 無能な怠け者は連絡将校か下級兵士が務まる
  • 無能な働き者は銃殺するしかない

出典元や定義の表記には揺れがあり、ドイツの軍人ハンス・フォン・ゼークトによるとされるが、実際には別の人物によって提唱されたという有力説も存在する。いずれにせよ、注目すべきは「無能な働き者は、無能な怠け者以上に活用法がなく、精力的に活動することで周囲の人間に迷惑をかけてしまう」という話である。

さらに多くの場合、厄介なのは無能な働き者は権力を持ち、本人にその自覚がない点にある。

無能な働き者とイノベーターの共通点と違い

無能な働き者とイノベーターは共通点がある。

まず、両者ともに「周囲の理解を得られない」という点である。世界的起業家はどちらかといえば「尊敬の念」より「クレイジーの称号」を欲しいままにしているケースが多いだろう。あまりにも常人離れした発想力と行動力で、一般人からの理解が得られないからだ。事例をあげるなら、ポストジョブズと言われ、テスラ・モーターズ社を率いるイーロン・マスク氏である。「コスト100分の1のロケットの再利用」という非常識なイノベーションに挑戦し、一時は破綻寸前まで追い込まれるも、時価総額ランキング上位まで自社を成長に導いた天才的ビジネスマンだ。

その一方で無能な働き者は、徹頭徹尾、周囲の支持を得ることはない。イノベーターとの最大の違いは、無能な働き者が示すビジョンが市場の支持を獲得できない点にある。イノベーターの場合は「すごいアイデアだけど、そんなことはできっこない」と実現可能性に対して批判を受けるが、アイデアそのものは支持を得ているケースもある。だが、無能な働き者の場合、彼らの仕事をそもそもマーケットが受け入れない。つまり、働いている本人だけが仕事をする気になってしまう「裸の王様」状態なのである。