人間は目から映像を取り込んで脳で処理しますが、コンピュータにも同じことができます。
スマホの顔認証システムのように、カメラで画像を取得して、チップで処理しているのです。
そんなコンピュータの画像処理の分野に革新が訪れようとしています。
アメリカ・ペンシルバニア大学(UPenn)電気システム工学科に所属するファシッド・アシティアニ氏ら研究チームが、1秒間に20億枚の画像処理が可能なニューラルネットワークを開発したのです。
従来は光を電気に変換してから処理していましたが、光のまま処理できるシステムを作ることで、処理速度を大きく向上させています。
研究の詳細は、2022年6月1日付の科学誌『Nature』に掲載されました。
目次
従来の画像処理が遅い理由
光信号をそのまま処理できるニューラルネットワーク
従来の画像処理が遅い理由
従来の画像処理には、人間の脳機能の特性をコンピュータで表現した「ニューラルネットワーク」が利用されています。
しかし実際は、本物の脳に遠く及びません。
その原因の1つが、コンピュータにおける変換やプロセスの多さにあります。
従来のコンピュータは光をそのまま処理できないので、コンピュータが理解して処理できる情報に変換した後、改めて計算しなければいけないのです。
例えば、画像センサーが受け取った光信号は電気信号に変換されます。
そして電気信号は、バイナリデータ(0と1で表される二進数のデータ)化された後、メモリに保存。
そのうえで、コンピュータが順番にその情報を計算していくのです。
また、それぞれのプロセスごとに、「処理速度の限界」という壁に当たるため、そのたびに全体の画像処理速度が遅れていきます。
複数の変換と処理を行っている現在のニューラルネットワークでは、どうしても処理速度に限界があるのですね。
では、画像処理の速度を向上させる新しい方法はあるのでしょうか?
光信号をそのまま処理できるニューラルネットワーク
今回チームは、光信号をそのまま処理できる新しいニューラルネットワークを開発し、9.3平方ミリメートルのチップに収めました。
つまり、光信号を電気信号に変換しないことで、それ以降のプロセス(バイナリデータ化、膨大なメモリ保存、クロック周波数にもとづいた計算)も省略したのです。
研究チームによると、「新しいニューラルネットワークはより本物の脳に近い」ようです。
本物の脳は、神経細胞(ニューロン)と細胞同士をつなぐシナプスによってデータの保存と計算を行います。
同様に開発されたチップにも多数のニューロン層とそれをつなぐ光チャンネルがあり、光を直接読み取ったり、光がチップを伝播する過程で計算が行われたりするというのです。
チップが光信号を直接処理できるため、データ変換した情報を保存する必要もありません。これにより、大きなメモリユニットも不要になります。
光信号を直接読み取る技術自体は新しいものではありませんが、互換性や拡張性を備えたシステムとしてチップに収めたのは、今回が初めてでした。
では、従来のプロセスを省略した新しいチップは、どれほどの成果を出したのでしょうか。