オーストラリア科学アカデミーに所属する物理学者マーカス・アスペルマイヤー氏ら研究チームは、半径1ミリメートルで重さ92ミリグラム(0.092グラム)の金球2つの間に生じる重力場をはじめて測定しました。

これまでで最小の重力場が検知されたことは、将来的に一般相対性理論と量子力学を統一するのに役立つかもしれません。

研究の詳細は、3月10日付の科学誌『Nature』に掲載されました。

目次
一般相対性理論と量子力学の統一
92ミリグラムの金球の重力場を測定する
最小の重力場を検知!ニュートンの法則にも従っていた!

一般相対性理論と量子力学の統一

重力は誰もが体感している自然の力です。そしてその力は物体の質量と距離に関係しています。

例えば、地球上ではすべての物体は同じ加速度で自由落下します。

膨大な質量をもつブラックホールになると、その重力は非常に大きく周囲の光さえ閉じ込めてしまうほどです。

また地球の約80倍軽い月では重力も小さくなり、物体の落下速度は6倍遅くなります。

これまでで「最小の重力場」を測定成功! 量子力学と古典力学の境界線を決める研究
(画像=一般相対性理論と量子力学 / (左)Credit:Depositphotos , (右)Credit:高エネルギー加速器研究機構 / 文部科学省、『ナゾロジー』より 引用)

現在これらの重力作用は一般相対性理論で説明されます。その理論では質量が小さくなればなるほど、重力も小さくなるのです。

ところが極小の世界、量子レベルになると一般相対性理論は成り立たず、量子力学によってのみ説明できるようになります。

つまり現在の科学者たちは、大きな物体には一般相対性理論を当てはめ、小さな物体には量子力学を当てはめているのです。

2つの理論を一緒に考えようとしてもうまくいきません。

大きさが異なるだけで当てはまる理論が違ってくるというのは、なんとも不思議な話です。

そのため科学者たちは、一般相対性理論と量子力学を統一する新たな理論を見つけようとしてきました。

92ミリグラムの金球の重力場を測定する

一般相対性理論と量子力学を統一するためには、それぞれの理論がどこまでカバーしているのか正確に知っていなければいけません。

つまり、一般相対性理論と量子力学が適用される質量の境目が分かれば新たな道が開ける可能性があるのです。

そこで研究チームは一般相対性理論とこれに含まれるニュートンの法則が、どこまで小さい物体で観測されるか調査することにしました。

しかし小さい質量から生じる重力は、当然ながら非常に小さいはずです。

地球の重力やその他さまざまな要因の影響を受けずに測定するのは難しいのです。

そこでチームは18世紀、英国の科学者ヘンリー・キャヴェンディッシュ氏によって設計された装置を応用しました。

これまでで「最小の重力場」を測定成功! 量子力学と古典力学の境界線を決める研究
(画像=金球重力場を測定するための実験装置 / Credit:Markus Aspelmeyer、『ナゾロジー』より 引用)

新しい装置では、それぞれ半径1ミリメートル、重さ92ミリグラムの金球が3つ使用されました。

それぞれの金球は①質量・重力をテストするため(上の画像でmt)、②バランスを取るため(ma)、③近づけて重力相互作用を検知させるため(ms)に使用されました。

まず①と②が水平のガラス棒に取り付けられます。次いで、①に③を近づけて重力相互作用が働くか観察しました。

ガラス棒に取り付けられた鏡とレーザー光の反射によって小さな動きを把握。発生した重力場を検知できます。

ちなみに実験では、電磁的作用が働かないようにファラデーシールドを使用。また、装置そのものを真空チャンバーにいれ、音響および地震の干渉を防ぎました。