私たちは膀胱が満タンに近づくと、自然と「おしっこしたい」と感じて安全に排尿を行うことができます。

また排尿している最中には、膀胱の中身が減っていく感覚がきちんとあり、完全に膀胱を空にして排尿を終えることができます。

これは当然のことのように思えますが、実は排尿のシステムがどのように機能しているかは十分な研究が行われていません。

10月14日に科学誌『nature』に発表された研究では、私たちの触覚に関連したセンサータンパク質が膀胱が満杯だという感覚の根底にあり、正常な排尿を可能にしていることを発見したと報告しています。

膀胱の機能に問題が発生した場合、日常生活に大きな負担をかけることになるのは容易に想像のつくことです。この発見は高齢者が排尿をうまく行えなくなる問題の治療にも役立つ可能性があります。

目次
組織の歪みを感知するメカセンサータンパク質「PIEZO2」
「PIEZO2」が欠損したらどうなるのか?

組織の歪みを感知するメカセンサータンパク質「PIEZO2」

「トイレにいきたい!」という感覚はどこから来るのか? “膀胱が満杯であることを察知する”センサータンパク質を初めて特定
(画像=神経細胞のイラスト。 / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

私たちの体には力学的な刺激を感知するメカノセンサーと呼ばれる機能が存在しています。

今回の研究チームの一人アーデム・パタプティアン博士は、2010年に組織の歪みを感知するメカノセンサー「PIEZO2」とその姉妹タンパク質「PIEZO1」を初めて同定し、その功績から権威ある科学賞「2020年カブリ賞 神経科学部門」を受賞しました。

PIEZO(ピエゾ、圧を意味する単語)は、センサータンパク質の1種で、イオンチャネルタンパク質とも呼ばれます。

イオンとは電荷を持った原子のことで、イオンチャネルタンパク質は細胞の外膜に埋め込まれていて、何らかの刺激に応じて細胞内にイオンを透過させ電気の流れを生み出します。

神経を通じて脳に信号が伝わるのは、こうした細胞のイオンチャンネルが十分に働いて、イオンの流れが生じるためです。

PIEZOの場合、イオンチャンネルが働くきっかけになる刺激は、局所組織にかかる細胞膜の伸張です。

パタプティアン博士は10年間に渡る研究の中で、「PIEZO2」が全身のさまざまな臓器や組織に発現していることを明らかにしました。例えば、肺の伸びを感知して呼吸を調整したり、血管内で血圧を感知したり、また皮膚の触覚を媒介する役割も担っていることが判明しています。

私たちの身体感覚において、非常に重要な役割を果たしているタンパク質が「PIEZO2」なのです。

「PIEZO2」が欠損したらどうなるのか?

触覚において重要な「PIEZO2」ですが、世の中にはこの「PIEZO2」の機能損失につながる遺伝子変異を持って生まれた人々がいて、「PIEZO2」に関連した感覚機能にさまざまな障害を受けています。

今回の研究チームのメンバーは当初、感覚障害などについて研究をしており、その中で「PIEZO2」欠損者が膀胱が満タンになっているという正常な感覚を欠いているという事実を発見しました。

この障害を持つ人々は、失禁を避けるために排尿を予定通り行うことや、排尿時に膀胱を完全に空にするということができませんでした。

「トイレにいきたい!」という感覚はどこから来るのか? “膀胱が満杯であることを察知する”センサータンパク質を初めて特定
(画像=膀胱に溜まった尿による組織の伸縮。 / Credit:depositphotos,『ナゾロジー』より 引用)

研究チームは、この「PIEZO2」の欠損がマウスでも同様の症状をもたらすことを実験で示しました。

マウスの尿路には、膀胱の感覚ニューロンと表層の細胞(アンブレラ細胞)に「PIEZO2」タンパク質が存在していて、組織の伸縮を検知し排尿を促進させていることがわかりました。これは膀胱の制御に2つのセンサーシステムが存在していることを示しています。

マウスの膀胱ニューロンは通常、膀胱が満タンになると神経信号でしっかり反応していますが、「PIEZO2」が欠損していると膀胱が満たされているということを感知できなくなったのです。

また、「PIEZO2」を欠損している場合、排尿時の筋肉制御にも異常が見られたといいます。

これは、マウスもヒトも、正常な膀胱の感覚や、正常な排尿に「PIEZO2」が必要であることを示唆しています。