北極海はまごうことなき海ですが、歴史上この領域は氷に閉ざされることで巨大な淡水湖になっていた可能性が出てきました。

2月3日に科学雑誌『nature』で発表された新しい研究は、北極海が少なくとも2回の氷期に、完全な淡水の状態になっていたと報告しています。

これは氷の隔壁が失われたとき、短時間に大量の淡水を海に流し込んだと考えられ、急速な気候変動の原因になった可能性があります。

目次
巨大な淡水湖だった北極海
これまで謎に包まれていた氷河期の北極海

巨大な淡水湖だった北極海

氷河期の北極海は「巨大な淡水湖」になっていた時期が2回あった
(画像=氷河期は海面が下がり、北極海は概要との接続が限定的になっていた。 / Credit:Alfred Wegener Institute /MartinKünsting、『ナゾロジー』より引用)

地球は氷河期に入ると氷床が成長することで海面は下がっていきます。

この海面が低い時代、北極海は太平洋、大西洋と繋がるポイントが非常に限られていて、グリーンランド、アイスランド、北ヨーロッパ、シベリアがまるでボウルの縁のように機能していました。

さらに、厚さ900メートルを超える2つの巨大な氷床が北極海を封鎖していたのです。

1つはアイルランド、スコットランドからスカンジナビア半島を経由しロシア北部のカラ海まで、5000キロメートル以上を覆い、もう1つの氷床は、現在のカナダ、アラスカから、グリーンランドとベーリング海を覆っていました。

これによって、氷河期の特に寒い時期、北極海は完全に閉じた海となっていたのです。

氷河期の北極海は「巨大な淡水湖」になっていた時期が2回あった
(画像=北極海の改定地図。氷河期になると、海面の低下と巨大な氷床によって閉じた領域になった。 / Credit:Wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

今回発表された研究によると、北極海は過去15万年間に少なくとも2回、7万~6万年前と15万~13万年前に、この完全な隔離状態になっていたというのです。

このとき北極海は、大陸から大量に流れ込む淡水によって、計算上約8000年で、ほぼ淡水の状態に変わっていた可能性があるのです。

これまで謎に包まれていた氷河期の北極海

氷河期の北極海は「巨大な淡水湖」になっていた時期が2回あった
(画像=氷河期に北極海は900メートル以上の厚さの氷床に囲まれていた。 / Credit:Alfred Wegener Institute、『ナゾロジー』より引用)

海に浮かんだ氷床の存在は、陸上を覆った氷床や氷河に比べて、ほとんど地質学的な痕跡を残しません。

そのため、これまでは氷河期の北極海がどのような状態だったかは明確ではありませんでした。

今回の研究チームは、これを明らかにするために、グリーンランドとスヴァールバル諸島の間に位置するフラム海峡と、北欧海の堆積物コアに目を向けました。

コアというのは筒状に地面をくり抜いて採取された地層のサンプルのようなものをいいます。この長い円柱状の堆積物には、各層が形成された歴史が保存されています。

氷河期の北極海は「巨大な淡水湖」になっていた時期が2回あった
(画像=世界の海で採取された海洋コアの例。今回の研究のものではない。 / Credit:高知大学海洋コア総合研究センター、『ナゾロジー』より引用)

チームは10カ所から採取した、この堆積物コアを分析しました。

するとどのコアからも、同じ間隔である重要な指標の欠落している層が2つあることを発見したのです。

その重要な指標とは、トリウム230と呼ばれる元素です。

「塩水では、天然に存在するウランが崩壊するとき、常に同位体トリウム230が生成されます。これは海底に蓄積しますが、半減期が7万5千年もあるため、非常に長い期間検出することが可能なのです」

研究の筆頭著者であるアルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所のウォルター・ガイベルト氏はそのように説明しています。

つまり、堆積物コアの中で、定期的に広範囲にわたってトリウム230が不在となっていたことの、唯一の合理的な解釈は、北極海が歴史上少なくとも2回は淡水になっていたと考えることなのです。