快感を感じなくなっているのは、うつ病のせいではないかもしれません。
4月12日に『BRAIN』に掲載された論文によれば、快感を感じる能力の喪失は、早期認知症(FTD)との関連が深いことが示されました。
早期認知症の代表的な型(前頭型と側頭型)では、快感を感じるために必要な脳領域が委縮して細胞が死滅してしまいます。
うつ病と早期認知症では、それぞれ異なる治療が必要となりますが、問題なのは、早期認知症による快感の喪失とうつ病が混同されていた可能性があることです。
しかし今回の研究により、この問題は解消されるかもしれません。
目次
快感を感じないのは「うつ病」よりもキケンな症状のせいかもしれない
快感を感じる脳領域が委縮して永続的に快感が得られなくなる
快感を感じないのは「うつ病」よりもキケンな症状のせいかもしれない
うつ病では、快感の喪失(無快感症)がよく見られます。
私たちの脳は通常、美味しい食事やきれいな夕日といったささいな出来事に対しても快感の回路が反応し、満足感や喜びをもたらしてくれます。
しかし無快感症に陥っている人はそれができません。
そして無快感症になってしまうと、モチベーションも低下します。
人々が何かをしたいと思う時は、喜びや興奮を得たいという動機付けがされますが、喜びも興奮も感じられない人々にとって、行動する動機など生まれようがありません。
結果「何をやっても楽しくないのだから、何もしない」という選択を常にとってしまいます。
しかし今回、オーストラリアのシドニー大学の研究者たちにより、無快感症がうつ病以上に、早期認知症と密接に関連していることが確認されました。
研究チームは、認知テストを用いて快感を感じる度合いを病状ごとに調査しました。
すると、健康な人やアルツハイマー病の患者では無快感症がそれほどみられなかったのに対して、早期認知症の代表的な型(前頭型と側頭型)では有意な快感レベルの低下が確認されたのです。
しかも、これはうつ病よりも重要な脳の異変を起こしていました。
早期認知症では、快感を感じるために必要な脳領域が委縮して、快感を発生させる細胞たちが死滅していたのです。
快感を感じる脳領域が委縮して永続的に快感が得られなくなる
研究者たちが早期認知症(前頭型と側頭型)を患っている人々の脳をMRIで調べた結果、非常に衝撃的な結果が現れました。
早期認知症患者の多くが、「快感の源泉」というべき複数の脳領域(眼窩前頭皮質と前頭前野、島皮質、被殻)に、委縮と細胞の死滅を起こしていたのです。
快感を得る脳領域での萎縮や細胞の死滅は、生涯に渡り、快感を得ることを非常に困難にします。
この病状の進行を遅らせるためには、すみやかな専門治療が必要となります。
しかし、モチベーションの低下は主にうつ病の診断基準となっているため、これまで早期認知症がうつ病と混同されていた可能性があるのです。
今回の研究が発見した事実は、暗い話題のように思えます。
しかし重要なのは、今回の成果により「うつ病」と「早期認知症」をMRI画像から見分けられるようになったということです。
単なる「うつ病」の場合、原因は神経伝達の不調であり、脳の萎縮や細胞の死滅は、それほど顕著ではありません。
一方、早期認知症では快楽にかかわる脳の複数に特徴的な萎縮パターンがみられたからです。