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レモンとライムを同じ柑橘系に分類するクラスターとコードの発見
クラスターを破壊するとレモンとライムが別系統の匂いに感じる

脳が「嗅覚をコード化」する仕組みをマウス実験で解明! 自分が感じるレモンの香りは人類共通の認識だった
(画像=私にとってのレモンの香りはあなたにとっても本当にレモンの香りなのだろうか?/Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

point

  • 同じ匂いに対して同じ香りを感じているという保証はなかった
  • しかし嗅覚をコード化した結果、同種内では同じ匂いに対して同じ神経活動パターンがみられた
  • マウスの嗅いでいる匂いをコードを読み取るだけで判別できるようになった
  • レモンとライムといった似た匂いの区別は特殊なクラスターが司っている

自分にとっての「レモンの香り」は他の人間にとっても同じ香りなのか…

たとえば、自分と他人で「レモンの香り」と「焼肉の香り」の概念が完全に入違っているために、本当は別の匂いをレモンの香りと感じている可能性はないのか?

そんな哲学的な疑問に答える研究が行われました。

7月1日に「Nature」に掲載された研究では、嗅覚のコード化が行われ、同じ匂いを嗅いだマウスたちは、非常によく似た神経回路の活動パターン(コード)を出力することが示されました。

このことは、あるマウスにとってのレモンの香りが他のマウスにとっても同じように感じられていることを意味します。

また、研究者はランダムに装置から発せられる匂いを、マウスの脳から発するコードを読むことだけで、当てることにも成功しました。

この技術が人間にも応用されれば、デジタル機器を通して匂いを「送信」できるようになるかもしれません。

レモンとライムを同じ柑橘系に分類するクラスターとコードの発見

脳が「嗅覚をコード化」する仕組みをマウス実験で解明! 自分が感じるレモンの香りは人類共通の認識だった
(画像=種が同じなら特定の匂いに対して同じ嗅覚コードが生成される/Credit:nature、『ナゾロジー』より引用)

研究者はまず、動物の脳が異なる匂いをどのように識別・クラス分けしているかを解明しようとしました。

レモンとライムの発する匂い成分は異なるにもかかわらず、私たちは両者を非常に近い匂いとして感じ取ります。

このような現象が起こる原因として最も可能性が高いのは、脳は匂い成分の分子構造や電気的特性などが近いものを、仲間にするという説です。

研究者はこの説を証明するため、様々な匂いをマウスにかがせ、脳内の神経回路の活動パターンを記録しました。

結果、匂い成分の化学的類似性が高いものほど、よく似た神経活動パターンが観察されました。

また興味深いことに、上の図のように、あるマウスで観察された神経活動パターンと非常によく似たコードが、同じ匂いを嗅いだ別のマウスでも確認されたのです。

研究者は、このコードの類似性を利用することで、ランダムに装置から発せられる匂いをマウスの脳から発するコードを読むことだけで、当てることにも成功しました。

研究者は、このように、同じ種の動物が特定の匂い(レモンなど)を同じ神経活動パターンで処理しているのは、同じゲノムを持っているからに他ならないと考えています。

すなわち、同じ人間であればレモンの香りに対して同じような神経活動パターン(コード)が生成されるため、全人類が同じ香りを認識していることになるのです。

クラスターを破壊するとレモンとライムが別系統の匂いに感じる

脳が「嗅覚をコード化」する仕組みをマウス実験で解明! 自分が感じるレモンの香りは人類共通の認識だった
(画像=関連性の強い匂いに反応してコードを生成する神経細胞のクラスターが存在する/Credit:nature、『ナゾロジー』より引用)

さらに今回の研究では「レモンとライム」といった似通った匂いを嗅いだ時だけ活性化する神経細胞のクラスターも発見されました。

研究者は、このクラスターこそがレモンとライムを似たような柑橘系の匂いだとまとめて判断するコードを生成していると予想し、それを破壊してみました。

予想が正しければ、マウスは二度と、レモンとライムを同じ柑橘系だと認識できなくなるはずです。

破壊には破傷風菌の毒素を使用しました。

神経細胞が毒素に侵されると、神経接続が破壊され、関連付けの核であったクラスターも崩壊してしまいます。

実験を行った結果、マウスの脳は、ついさっきまで同系統の匂いだと感じていたいくつかの匂いを、別分類の匂いだとするコードを発し始めたのです。

人間に例えれば、レモンとライムをもはや同じ柑橘系だと思えなくなる…ということになります。