枢機卿と次期教皇の主導権争い

次期教皇を予想する場合、枢機卿の出身者が多い最大グループが通常主導権を握っている。ただし、例外もある。前回のコンクラーベでは114人の枢機卿のうち、60人の枢機卿を抱える欧州教会出身者から次期教皇が選ばれると予想され、イタリアのミラノ大司教アンジェラ・スコラ枢機卿の名前が有力候補に挙がっていた。

しかし、世界で最大の信者数を誇る南米教会から次期教皇(フランシスコ教皇)が選ばれた。なお、当選には選挙権を有する枢機卿の3分の2の支持が必要だ。2005年のコンクラーベではべネディクト16世は4回目の投票で、フランシスコ教皇の場合は2013年、5回目の投票でそれぞれ当選した。

ちなみに、前回コンクラーベ開催前の準備会議(枢機卿会議)でブエノスアイレス大司教のホルへ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿(現ローマ教皇フランシスコ)が教会の現状を厳しく批判し、「教会は病気だ」と述べた。その内容が多くの枢機卿の心を捉え、南米教会初の教皇誕生を生み出す原動力となったといわれている。南米出身の新教皇の誕生は114人中、90人の枢機卿がベルゴリオ枢機卿を支持した。

新しい枢機卿に選出された中で、イタリアのジョルジョマレンゴは1974年6月7日生まれで48歳と若い。新しい枢機卿の中で最年少ばかりか、全枢機卿の中でも最年少となる。マレンゴ氏は2022年4月2日以来、モンゴルの首都ウランバートルの使徒座知牧として働いている。

8月下旬に教会会議が開催されるのはめずらしい。教皇自身の説明によると、教会会議の翌日、ローマ教皇庁の新しい使徒憲章について審議するために全ての枢機卿が集まる必要があったからだ。

フランシスコ教皇が生前退位する可能性

世界のカトリック教会の現状は非常に深刻だ。2010年から聖職者の性的虐待事件が次々と発覚し、教会の信頼は地に落ちた。同時に、バチカン銀行の不正問題がメディアに報じられるなど、文字通り、バチカンは満身創痍といった状況だ。聖職者不足、信者の教会離れは加速し、教会運営が厳しい教会が増えている。誰が次期教皇に選出されたとしても大変だ。

ベネディクト16世は78歳の時、フランシスコ教皇は76歳の時に教皇に選出されたが、ショート・リリーフ的な役割を新教皇に期待する声が強かったことが背景にはあった。コンクラーベが教会の抜本的な改革を願い、本格的教皇の誕生を願うとすれば、60歳代の若い教皇を選出する可能性も考えられる。

それではポスト・フランシスコの次期教皇(第267代)はどのような使命を担って選出されるだろうか。聖職者の性犯罪対策で革命的な提案(独身制の廃止)を叫んで立候補するだろうか。コンクラーベは現ローマ教皇が亡くなってから行われるが、85歳と高齢で肘痛で歩行もままならないフランシスコ教皇がベネディクト16世(在位2005年5月~13年2月28日離任)に倣って生前退位する可能性は排除できないから、次期コンクラーベはいつ開催されても不思議ではないだろう。21人と大量の新しい枢機卿が選出されたのは、ひょっとしたらその準備かもしれない。

21人の新枢機卿と次期コンクラーベ
(画像=querbeet/iStock、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年6月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

文・長谷川 良/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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