動物とのコミュニケーションがまた一歩前進しました。

9月21日付けで『Current Biology』に掲載された論文によると、優しく「くすぐられた」ときにあげるマウスの鳴き声が、ただの反射ではなく楽しんでいる時の「笑い声」であると確認されたのです。

しかし研究者たちはいったいどうやってマウスの声と感情を結びつけたのでしょうか?

目次
動物の感情に対する理解は飛躍的に進歩した
マウスの笑いは純粋だった

動物の感情に対する理解は飛躍的に進歩した

マウスもくすぐられると「楽しくなって笑い声」をあげる。動物の”感情を測定する”実験により判明
(画像=コード化された感情を強制的に流し込むことができる / 各感情をあらわしたときのニューロン発火パターンを測定することで、感情固有のコードを解明できる。痛みと嫌悪と直接的恐怖は非常に似通ったコードをしている。また興味深いことに、快楽は最も複雑なコードとなっている/Credit:Science、『ナゾロジー』より引用)

近年の行動学の進歩により、動物の感情に対する理解が急速に高まっています。

特に実験動物であるマウスに対しては研究がの進歩が顕著です。遊んでいるとき、エサや薬物を受け取っているとき、交配しているとき、うつ状態のときなど、様々な感情を誘発させ、その鳴き声や行動パターンが分析されてきました。

また過去に記事にした研究では、上の図のように、機械学習によってマウスの表情を読み取ることに成功。さらに生きたまま脳に差し込んだ電極で神経活動を測定することで、痛み・苦しみ・恐怖・嫌悪といった各感情のコードを読み取ることもできています。

逆にこのコードをマウスの脳に電気パルスとして流し込むことで、マウスに感情を強制することにも成功しているのです。

これら近年の目覚ましい成果により、マウスはポジティブで愉快な状況に置かれた時に、人間の耳には聞こえない50キロヘルツの高さの鳴き声をあげていることが判明しました。

人間の耳が感じ取れる可聴領域は20ヘルツから20キロヘルツと言われており、50キロヘルツの笑い声は超音波であるため人間は直接聞くことはできません。

しかし数々の実験結果が指し示す状況証拠からみて、この超音波の鳴き声が「笑い声」であると多くの研究者が予想しています。

一方、マウスは優しく「くすぐられた」ときにも同じ50キロヘルツの笑い声をあげることが知られていました。

くすぐられて笑い声をあげる様子は非常に人間らしい反応ではありますが、研究者たちはこの笑い声が純粋にマウスが楽しんであげている声なのか疑問に思ったようです。

マウスの笑いは純粋だった

マウスもくすぐられると「楽しくなって笑い声」をあげる。動物の”感情を測定する”実験により判明
(画像=マウスはくすぐられると超音波で笑う / くすぐりかたにばらつきがでれば実験の正当性が失われるため、長く苦しい修業が必要になる/Credit:University of Bristol、『ナゾロジー』より引用)

優しく「くすぐられる」と超音波の笑い声をマウスはあげます。

しかし観察している人間は、このときの声が、単なる反射的な声なのか、楽しんでいる声なのか、見分けがつきませんでした。

そこでイギリス・ブリストル大学の研究者たちは、既存の研究結果を参考にして、改めてマウスの感情の分析を行いました。

結果、優しく「くすぐられた」ときにマウスの発する50キロヘルツの「笑い声」には、ポジティブな感情が含まれていることが判明したとのこと。なんとマウスはくすぐられることに対して楽しんでいたのです。

また笑い声とポジティブ度合いを比較することで、マウスは人間のように笑いに対して複雑ではなく、楽しさと笑いの関係が素直であることも判明(絶望で笑ったりしない)。動物は感情に素直であるというのは、犬や猫だけでなくマウスでも同じなようです。

もちろん、全てのマウスが同じように「笑い声」をあげるわけではありません。

くすぐりに対して大いに楽しむ個体がいる一方で、ほとんど反応しない個体も存在しました。

笑いに対する個性は、マウスも人間も同じなようです。