「戦は40前は勝つように40過ぎたら負けないようにすべきだ」

信玄が生きていた戦国時代、人の寿命は50年ほどだった。そんな時代において、人生のステージに応じて有利な戦い方は違うという提案と筆者は解釈している。

この言葉はビジネスキャリアで考える事ができると思う。会社員のビジネスキャリアは年代ごとに求められるスキルは異なる。20代は与えられた課題を正確にスピーディーにこなす。30代は業務改善をしながら部下に自分のスキルを与えていく。40代はマネージャーとして部下が個別に動くより、マネジメントすることでより高いパフォーマンスを出す。業界や部署で違えど、概ねこのようなイメージである。

言い方を変えれば、30代でプレイングマネージャーが務まるには、20代でスキルを蓄えて独力で戦える力を備えるべきと言える。また、40代でマネージャーとして活躍するには、30代で身につけるべき課題は終えている必要があるわけだ。

「一日ひとつずつの教訓を聞けば、一月で三十か条に、一年で三百六十か条になる」

昨今、習慣化についてのビジネス書や動画がたくさん見られるようになった。だが依然として多くの人は習慣化が実現せず、苦しんでいる。その理由は一夜で大変身をしようとするからだ。そんな時、信玄のこの名言を思い出したい。千里の道も一歩から、である。

運動をまったくしなかった人が朝5時起きでジョギングを始めたり、ロクに勉強をしなかった人が英会話スクールに通って何時間も話す練習をしようとする。だが1ヶ月後に継続する人は10%もいない。理由は変化の幅が大きすぎるからである。大きな変化は緩慢にしか起きない。故に、一日での変化率は低くても良いという受容力が必要だ。

たとえば毎日1%ずつ進歩するとする。多くの人はこの変化率の低さに不満を持つだろう。だが継続することでこの数字は大きく化ける。今日1%前進すれば、明日は101%のパフォーマンスになる。その101%にさらに1%改善すると、101%×101%=102.01%となる。それが365日継続するとどうなるだろうか?101%の365乗で3,780%というパフォーマンスである。つまり、38倍もの成長になるのだ。

筆者は文章能力の向上においてこの感覚がある。初めてビジネス記事を書いた時の質は極めて低く、自分で数年前に書いた記事を読むと噴飯もののクオリティだと感じる。しかし文章の向上を求めて、他の記事から学びを得たり良さそうな文章表現をメモしておき、自分の記事で使おうと努力を重ねた。その結果、毎日1%ずつ成長をしたことで過去の自分と比べた場合において、かなりの筆力向上が実現できたように思う。

信玄の名言は現代ビジネスマンにも通用するものばかりであり、古臭さを感じない点に驚かされるが別の言い方をするとテクノロジーは発達しても、人間心理というソフトウェアはアップデートされることがないということである。職場の上司よりも信玄のような偉人による名言の方が仕事術につながる知見を得られる可能性は高いだろう。

文・黒坂 岳央/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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