2月末にロシアの侵攻で始まったウクライナ戦争は、4月初めのトルコの仲介による停戦の兆しがその直後の首都近郊のブチャでの虐殺報道で流れた後、鬩ぎ合いが続いている。

先行きが見通せぬ中、圧倒的な世界的ロシア非難の中で元大阪府知事の橋下徹氏を含めロシアの立場へ理解を示す言説も少なからずあり、一部人格攻撃を伴い双方間の論争が方々で熱を帯びた(なお、橋下氏の主張には中国の台湾侵攻時の中国擁護論の瀬踏みと言う不純さも感じられる)。

それらの論争は混乱気味で、幾つかの論点整理が必要と思われる。筆者は、ウクライナ戦争を位置付けるには、①戦争犯罪、②侵略戦争、③世界秩序の3つの切り口でアプローチするのが妥当と考える。

戦争犯罪

先ず、戦争犯罪についてだが、停戦交渉を遅らせたブチャに於けるのを始めとした非戦闘員の民間人の虐殺は言語道断である。ロシアはウクライナ側のフェイクニュースだと主張したが、直後にそれを覆す衛星写真が出てロシアの犯罪はほぼ定説となった。

しかしその後、信頼度については判定し難いものの、それに反する情報も少なからず出て来る等、事実は藪の中の状況になっている感もあり、これを含め戦争犯罪全体について中立的な立場での更なる全容解明が求められる所である。

<参考> ウクライナ側使用のクラスター爆弾部品の発見情報(筆者注:信頼度には議論がある)

侵略戦争

当戦争は、文字通り侵略戦争そのものだろう。プーチンは複数の論文を含めた場でウクライナとロシアの歴史的一体性を謳っているが、そもそもこれらは三島由紀夫の「文化防衛論」と似て第三者を説得し得る様な理論化と普遍化に馴染むものではない。

また、プーチンは侵攻の理由として、米英を中心とした西側による嘗てのウクライナ親露政権転覆工作、東部ロシア系住民に対する弾圧に対する保護、ロシアに隣接する土地への積極的NATO軍配備への対抗等を謳っているが、その実態の測定と定性的評価には立場によって異なる。特に弾圧については嘗ての日中間の通州事件での居留民保護等も想起させるが、少なくとも現時点で広く認められているハードエビデンスでは当戦争の侵略性を相当に相殺するには至っていない。

なお、前述の戦争犯罪については、「百歩譲って戦争犯罪が西側の工作だったとしてもロシアが侵攻していなかったら虐殺は起こらなかった事なので、それを問う意味は無い」という言説はヤフコメの定番であるのみならず国際政治の専門家にも少なからず見受けられる。その気持ちは分かるし地続きであるのは確かであるが、一応は戦争犯罪と侵攻理由としているロシアの言い分は別の事柄と捉えてそれぞれの事実関係の確定が必要だろう。