3. 他国の労働者のシェアも見てみよう!

それでは、日本の小規模企業で働く労働者は本当に多いのでしょうか?

他国の状況と比較してみましょう。

OECDでは、中小企業(SMEs)に関するデータも公表されています。

中小企業労働者は本当に多すぎ?
(画像=図6 企業規模別 労働者数 2019年
出典:OECD統計データ、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

図6がOECDの統計データ(SDBS Structural Business Statistics)です。従業員規模1~9人の人数が多い順に並べています。

基本的には日本1も含めて労働者数(Total employment)の数値ですが、日本2、アメリカ、カナダは雇用者数(Number of employees)の数値になります。

日本はこの2つの指標でグラフ化している点にご注意ください。

通常、Number of employeesは企業に雇われる雇用者数を差し、それと個人事業主(Self-employed)を合わせてTotal employmentになるはずです。

つまり、Number of employeesよりも、必ずTotal employmentの方が人数が多いはずなのですが、なぜか日本のデータはNumber of employmentの方が多いという不可解なデータセットになっています。

恐らく、上記経済センサスの労働者のうち、Number of employeesに従業者数(合計約3,700万人)、Total employmentに常用雇用者数(合計約3,100万人)を割り当てているものと思います(実際に両社のデータを見比べて、おおむねこのようになっていることを確認しました)。

また、上記のデータは、農林水産業、金融・保険業、公務・教育・保健を含まない一般産業の企業についてカウントしているようです。

図2~5のうち、農林水産業から右側の産業は、OECDのデータに含まれていないと推測されます。
(したがって、本来全産業の日本の企業数は410万社ですが、このデータセットでは280万社となっています)

もちろん、他国も同じような条件でのカウントと思いますが、厳密には条件が完全に揃っているわけではない可能性もあります。あくまでも、一つの統計結果に過ぎない点をご承知おきください。

中小企業労働者は本当に多すぎ?
(画像=図7 企業規模別 労働者数 シェア 2019年
出典:OECD統計データ、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

図7がOECD各国の企業規模別の労働者数シェアを、1~9人の小規模企業のシェアが高い順に並べたグラフです。

やはり小規模企業の多い韓国(43.9%)やイタリア(41.8%)が上位に来ます。

日本は、日本1(Total employment)で13.5%、日本2(Number of employees)で22.3%です。いずれも先進国全体としてはシェアが小さいほうのようです。

企業規模別 労働者数
小規模(1-9人)企業 シェア 2019年 単位:%
1位 44.0 ギリシャ
2位 43.9 韓国
4位 41.8 イタリア
21位 22.6 カナダ
22位 22.4 フランス
23位 22.3 日本2 (Number of employees)
28位 19.3 イギリス
30位 18.6 ドイツ
33位 13.5 日本1 (Total employment)
34位 10.1 アメリカ

日本は小規模企業で働く労働者のシェアが特段大きいわけではなく、先進国としてはむしろ小さいです。

少なくとも、日本だけ小規模企業の労働者が多く、経済が非効率な事情を抱えているわけではなさそうですね。

4. 既に淘汰の進む日本の製造業

実は、日本の場合既に製造業で「小規模事業者の淘汰」が進んでいます。(参考記事: 日本の製造業で起こっている事)

中小企業労働者は本当に多すぎ?
(画像=図8 日本 製造業 事業所規模別 事業所数
出典:工業統計調査 工業統計表 産業別統計表、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

図8が、日本の製造業の事業所規模別に見た事業所数の変化です。1998年(青)と2020年(赤)について比べています。

4~29人の小規模事業者がこの間なんと4割程度にまで減少していて、30~99人規模でも2割程度が減少しています。それ以上の規模ではほぼ変わりませんが、1000人以上の規模では1割以上の減少です。

既に日本の製造業では、小規模事業者を中心にここまで淘汰が進んでいるわけですね。

中小企業労働者は本当に多すぎ?
(画像=図9 日本 製造業 事業所数・従業者数・付加価値額・1人あたり付加価値
出典:工業統計調査 工業統計表 産業別統計表、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

図9が日本の製造業全体の事業所数、従業者数、付加価値額(GDP)、1人あたり付加価値(生産性)についての変化です。1998年が100%としての割合で描いています。

この20年ほどで事業所数は約半分に減り、従業者数は約2割、付加価値額(GDP)は約1割減少しています。

皮肉なことに、主に「生産性が低い」とされる小規模事業者が減ったため、全体としての生産性(1人あたり付加価値)は向上しています。

中小企業労働者は本当に多すぎ?
(画像=図10 GDP 生産面 アメリカ、ドイツ、韓国、日本
出典:OECD統計データ、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

図10がアメリカ、ドイツ、韓国、日本の産業ごとのGDPです。赤が工業(≒製造業)を示します。

実は工業のGDPが縮小しているのは日本だけです。同じ工業国であるドイツや韓国は存在感が大きく、さらに右肩上がりで成長しています。製造業離れが進んでいるというアメリカでさえ、成長していますね。(参考: 工業の縮小する「工業立国日本」)

残念ながら、「下を淘汰すれば全体が良くなる」というわけではない事が、既に日本の製造業で確認できるわけです。

企業が適正な規模で適正な付加価値を稼ぎ、消費者でもある労働者の収入が増えていく事が大切だと思います。

その中の手段として、規模を拡大する事も1つの方向性とは思いますが、手段はそればかりではないと思います。大企業の労働者が不要となっていく中で、小規模な企業にしかできないビジネスもたくさんありますね。

中小企業は社会に多様性を供給する存在でもあります。むしろ、大企業の規模の経済による安定した供給をインフラとして活用しながら、独自の高付加価値ビジネスを展開できる環境にあるはずですね。

今後総人口→労働人口も減っていく中で、自分たちのビジネスの適正規模や価値を改めて再定義していく時代になっていくのかもしれません。

皆さんはどのように考えますか?


編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2022年5月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。

文・小川製作所/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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