気候変動 なすべき報道は
これまた「朝日新聞らしい」というべき記事である。冒頭いきなり「気候変動は地球の命運がかかっている問題」で始まり、「燃やしてもCO2が出ないため次世代のエネルギーとして注目される水素やアンモニアなど、新技術もわかりやすく報じていきたい」となる。そうだったら、筆者などが再三指摘している、水素・アンモニアの抱えている問題点も正確に伝えて欲しいものだが。
後半では「もう理屈抜きに脱炭素は経済の主要問題となり、これを進めないと世界の中で日本が置いていかれる状況なのに・・」との発言が出てくる。こうなるともはや「理屈抜き」の話になってしまう。科学的根拠だとかデータだとか、そんなものはどうでも良いんだと。いやはや、これで「あすへの報道審議会」と称しているのだから驚く。昔の「大政翼賛会」と見間違うほどだ。
筆者から見ると、この人たちは、一種のマインドコントロール下にあるような印象を受ける。何も考えず、疑いもせず、ただ「オンダンカ ダツタンソ」の呪文だけを唱えている「信者」にしか見えないからだ。この座談会には、疑うことから始まるはずの「科学的思考」が全然ない。
NHK BS世界のドキュメンタリー「グレタ ひとりぼっちの挑戦(前・後編)」も、上記記事と似た面がある。さしたる根拠も示さずに断定する姿勢が。この少女も「人為的地球温暖化説」を頭から信じ込み、ひとかけらも疑っていない。とにかく「CO2排出削減」一辺倒、賛同しない人間は「敵」呼ばわりだ。筆者は個人的には、単に「広告塔」に使われている無知な少女を憐れと思い同情しているのであるが。
EU、ロシアのエネルギー依存脱却へ 10年以内に「ゼロ」
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は8日、ロシア産天然ガスの依存度を年内に約6割低下させ、「2030年よりかなり前に」 依存をゼロにする計画を発表した。(中略)
EUは現在、ロシアから年間1550億立方メートルの天然ガス・液化天然ガス(LNG)を輸入。欧州委は、米国やカタールなどの国からの輸入で、今年はこの3分の1以上に当たる600億立方メートルが代替できると試算。30年までにはバイオメタンと水素の利用拡大で、一段の代替の進展が可能とした。
また、風力発電と太陽光発電の拡充で今年は200億立方メートルの天然ガス需要が代替できると試算。30年までに発電能力を3倍に高めれば、毎年1700億立方メートルの天然ガス需要が削減できるとした。(後略)
これもまた、何とも凄い「試算」だ。「夢があって良いねえ」と言いたいが、単なる「夢」で終わりそうだ。こんなことを言うから、ロシア政府は「欧州がロシアを制裁し続けるなら、ノルドストリーム1(ロシアから独仏などに天然ガスを送っているパイプライン)を止めるぞ」と言い出した。だから言わんこっちゃない。藪をつついたら大蛇が出てきた。今ロシアのガスを止められたら、40%も依存しているドイツは干上がる。
そもそも、バイオメタンと水素の利用拡大なんて、どこから持ってくる気なのか? 確かに畜糞や下水汚泥の嫌気性発酵でメタンガスは得られるが、利用できるものは既に使われているだろう。それに嫌気性発酵後の残渣は有機物濃度が高く、通常の活性汚泥法のような水処理では負荷が大きすぎる。最も良いのは、液肥として畑にまくことだが、年に何回かしか出来ないので、巨大なタンクが要る。それでも、まく畑があれば良いが、都市部では全く無理だ。日本でもFIT制度でバイオメタンからの電力が高いので大勢がワッと飛びついたが、上手く行った例は少ない。
◇
こうした報道や番組を見てつくづく感じるのは「脱炭素」の自滅的な性格だ。EUの例などが典型的だが、他人のクビを絞めようとしたら自分の首が先に絞まってしまった、類の話が多い。
脱炭素を主張しながら、原油や天然ガスの増産を望み、資源開発に投資するこのチグハグさに、何も感じないのだろうか・・。そもそも「脱炭素」を進めて、得をするのは誰なんだ? 金融資本? 筆者の目からは、欧米日の自滅、中露の高笑い、にしか見えないのであるが。
文・松田 智
文・松田 智/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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