大きなモーターユニットをいかに作動させるか
筋肉が出力するのは筋肉が収縮するからだ。では何が筋肉を収縮させるのか。その答えはモーターユニットにある。モーターユニットとは運動単位のことで、筋線維とそれに巻き付いている神経とで1つの運動単位が構成されている。刺激がもたらされ、神経がそれを筋線維に伝えると、筋肉はそれに反応して収縮を起こす。つまり、反応する運動単位が多ければ多いほど出力は大きくなり、逆に反応する運動単位が少なければ、出力も小さくなるのである。
一般的に運動を開始すると、まずは小さなモーターユニットが筋収縮を始める。なぜなら、小さなモーターユニットは持久力があり、大きなモーターユニットに比べると疲れにくいという特徴があるからだ。例えば、5㎞走らなければならないのに、最初から大きなモーターユニットを作動させて全速力で走る人はいないはずだ。そんなことをすればあっという間にモーターユニットが疲労してしまい、運動の継続ができなくなる。これは体に備わっている生存のための能力のひとつである。私たちの意思にかかわらず、体がエネルギーを無駄づかいせず、できるだけ効率よく物事を行おうとするのは、いかなる危機状況下にあっても生存することを優先するからなのだ。
運動の開始時は小さなモーターユニットが働くが、筋力やパワーアップを目指す私たちにとって、より重要なのは大きなモーターユニットのほうだ。このモーターユニットを作動させることができれば、より多くの筋線維が運動に関与し、より大きな出力が得られる。つまり、高重量での運動がしっかり行えるということだ。
大きなモーターユニットの特徴は、1回の収縮で大きな出力が可能であるということ。ただし、休まずに収縮を繰り返すことができない。だから自分にとっての最高重量を1レップは持ち上げることができても、連続して行うことはできないのだ。また、大きなモーターユニットでは、1本のニューロンがより多くの筋線維と連動している。そのため、できるだけ多くの筋線維に刺激を与えるには、大きなモーターユニットを作動させるような運動を行わなければならないである。
筋肉を限界まで追い込むようなトレーニング法は、モーターユニットを効率よく作動させるための方法であると言われる。しかし、そのためのやり方がハイレップ法であったりした場合はどうだろうか。ハイレップでも対象筋を追い込むことはできるが、このやり方で得られる効果は主に筋肥大であり、筋力向上の効果は少ない。つまり、運動量が多くなれば大きなモーターユニットは作動しない。なぜなら、大きなモーターユニットの持久力は低いからだ。筋力アップを狙うなら大きなモーターユニットを作動させなければならないわけだが、これに関連して私たちにはもうひとつ知っておくべきことがある。それは次に解説するエネルギー供給システムについてだ。
3つのエネルギー供給システム
私たちの体にはエネルギーを供給するシステムが3つ備わっている。それぞれのシステムには特徴があり得意不得意があるのだが、行う運動の種類によって理想的なシステムが作動し、私たちはより効率よく運動をこなすことができるのだ。3つのシステムのうちのひとつである「有酸素エネルギーシステム」が作動している間は、運動を休まずに継続できる。例えばゆっくりしたペースでのジョギングやサイクリングは、途中で休まなくても長時間にわたり運動を続けることができる。その理由は、持久力を高める有酸素エネルギーシステムが優位に作動しているからだ。
一方、「無酸素エネルギーシステム」は、酸素を用いずにエネルギーを供給する。無酸素エネルギーシステムには2種類あり、ひとつが「解糖系」と呼ばれるもので、グリコーゲンがエネルギー源として消費される。解糖系のシステムは60〜120秒間の運動に適していて、それ以上の継続はできない。最長120秒でシステムが切れ、休憩を挟まなくてはならないというわけだ。例えば高強度で行うインターバルトレーニング(HIIT)などがこのシステムを使って行われる。解糖系システム下での運動は、トレーニーがどれだけ強固な意志を持って120秒以上の運動を継続しようとしても、筋肉に強烈なバーンが起き、強制的に運動を停止せざるを得なくなってしまうのである。
無酸素エネルギーシステムの2つめは「ATPーCP系」だ。このシステムはさらに短時間の運動時にしか作動しないが、3つのエネルギー供給システムの中で最も大きな出力を可能にする。例えば高重量のスクワットを瞬発力を使いながら行うときはATPーCP系のシステムが作動する。このシステムを作動させて高重量を瞬発的に上げ下ろしするような運動を行うと、回復までに3〜5分もの時間がかかることが分かっている。パワーアップ、筋力アップを図りたい私たちが最も利用したいのがこの「ATPーCP系」だ。このエネルギーシステムを作動させるような運動こそが大きなモーターユニットを作動させることにつながる。軽い重量をゆっくりしたスピードで上げ下ろししてもこのシステムは作動しないということを、私たちはしっかり理解しておく必要がある。
文:Raphael Konforti, MS, CPT
翻訳:ゴンズプロダクション
提供元・FITNESS LOVE
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