キャッシュ・フロー計算書(CF計算書)…現金の稼ぎ方と使い方がわかる

最後に、キャッシュ・フロー計算書(CF計算書)を取り上げ、その基本的な読み方をマスターしておきましょう。

CF計算書を作成する目的は、1年間を通じた現金の収支を表示することにあります。「勘定合って銭足らず」という言葉がありますが、これは、損益計算書(P/L)上は利益が出ていても、現金が足らなくなってしまっている状態を指します。しばしば、P/L上は利益が出ているにもかかわらず、倒産してしまう「黒字倒産」という事例がありますが、これは支払いに充てなければならない現金が不足するために起こります。

そこで、経営を分析するときには、支払いに必要な現金が十分足りているのか、現金をどのように稼いでいて、どのように使っているのかを読み解くことが重要です。CF計算書からは、こうした現金の動きを見ることができます。

CF計算書に関しても、貸借対照表(B/S)やP/Lと同様に、図解して読む方法が有効ですが、その形式はB/SやP/Lとは異なります。CF計算書を図解する場合、「ウォーター・フォール・チャート」にするとわかりやすくなります。

このウォーター・フォール・チャートは、期首に保有されていた現金が、営業活動、投資活動、財務活動のそれぞれによってどれだけ増減したのかを示すグラフです。

下図は、CF計算書の基本構造をウォーター・フォール・チャートで示したものです。グラフの一番左は期首における現金残高、一番右は期末における現金残高であり、その間に営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF)、投資活動によるキャッシュ・フロー(投資CF)、財務活動によるキャッシュ・フロー(財務CF)という3つのCFが示されています。

【後編】ビジネスや投資に役立つ決算書の読み方 – 日本実業出版社
(画像=『日本実業出版社』より引用)

1つ目の営業CFは本業で稼いだキャッシュを示しており、普通はプラスとなります。営業CFがマイナスの場合には、会社が本業でキャッシュを稼げていないことを意味しています。営業CFのマイナスが続いている会社は業績が良いとはいえないので、注意しなければなりません。

2つ目の投資CFには、投資に充てられたキャッシュが示されています。一般的に、成長率の高い成長期の企業では相対的に投資CFのマイナス幅が大きくなり、成長率の低い安定期の企業ではマイナス幅が小さくなる傾向にあります。成長期の企業では、事業を拡大するために大きな投資を必要とすることが多いからです。

また、営業CFと投資CFを足し合わせたものを「フリー・キャッシュ・フロー(FCF)」と呼びます。これは、営業CFから純投資額を差し引いたものに相当します。FCFがプラスであれば、必要な投資を行なったうえで、稼いだキャッシュを有利子負債の返済などに回す余裕があることを意味しています。

3つ目の財務CFには、資金調達や返済に伴う現金収支が示されます。この財務CFは、成長期の企業ではプラスに、安定期の企業ではマイナスになることが多くなります。成長期には成長投資のための資金が必要になるため、新たな資金調達が行なわれることで財務CFがプラスになるのに対し、安定期の企業はキャッシュリッチ(現金が潤沢)になるために、借入金の返済や株主還元にキャッシュが回される傾向にあるからです。

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著者プロフィール:矢部 謙介(やべ けんすけ)

中京大学国際学部・同大学大学院経営学研究科教授。専門は経営分析・経営財務。1972年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒、同大学大学院経営管理研究科でMBAを、一橋大学大学院商学研究科で博士(商学)を取得。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)および外資系経営コンサルティングファームのローランド・ベルガーにおいて、大手企業や中小企業を対象に、経営戦略構築、リストラクチャリング、事業部業績評価システムの導入や新規事業の立ち上げ支援といった経営コンサルティング活動に従事する。その後、現職の傍らマックスバリュ東海株式会社社外取締役なども務める。

著書に『武器としての会計思考力』『武器としての会計ファイナンス』『粉飾&黒字倒産を読む』(以上、日本実業出版社)、『日本における企業再編の価値向上効果』『成功しているファミリービジネスは何をどう変えているのか?(共著)』(以上、同文舘出版)などがある。

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