目がないのに色がわかる動物がいるようです。
3月5日に『Science』に掲載された論文によれば、目がないどころか光を感知するタンパク質すら持たない動物に、色を見分ける能力が確認できたとのこと。
どうやらこの動物(C. elegans)たちは、わたしたち目を持つ生物とは全く異なる仕組みで世界を「見て」いるようです。
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目を使わず「全く異なる仕組み」で色を知覚する
大発見のコツは簡単に納得しないこと
目を使わず「全く異なる仕組み」で色を知覚する
地球の動物たちは、環境に適応した実にユニークな目を持っています。
しかし意外なことに、目の基本的な仕組みは全て共通です。
プラナリアからカタツムリ、イカやタコ、昆虫や人間に至るまで、全ての目を持つ動物たちは「オプシン」と呼ばれる、光に反応するタンパク質の反応を神経に伝達することで、世界を見ています。
この奇妙な共通点は、目を持つ全ての動物たちが最初に「世界を見た」何者かを共通の先祖に持つことを意味します。
化石などの調査により、今からおよそ5億4000万年前のカンブリア紀には既に目を持つ生物が存在していたことも知られています。
目を持つことの利点は凄まじく「最初に世界を見た」生物の子孫たちは軟体動物・昆虫・脊椎動物などへ進化し、その後の地球を支配していくことになります。
しかし今回、全く異なる仕組みで世界の色を見ている動物が存在していることが示されました。
その動物は、生物学においてマウスやショウジョウバエと同様に、最も研究材料として使われている線虫(C. elegans)です。
線虫の体を構成する細胞は1000個ほどしかありませんが、高等動物のように神経・筋肉・消化管・生殖器など基本的な体のパーツをそろえている不思議な生物です。
ただ、目は持っていませんでした。
線虫の遺伝子を調べても、目がある全ての動物が共通して持っている「オプシン」の遺伝子がなかったのです。
そのため、これまで線虫には青色などの「可視光」を感じ取れないと考えられていましたが、今回の研究で、その常識が間違っていると示されました。
大発見のコツは簡単に納得しないこと
他の歴史上の大発見と同じく、今回の研究も何気ない疑問がスタートになりました。
線虫は土の中にいる雑多な細菌を主食としていますが、毒であり青色色素でもある「ピオシアニン」を含む緑膿菌を避ける性質が知られていました。
そこでイェール大学のゴーシュ氏は、
「線虫たちは、いったい何を判断基準に緑膿菌を避けているのだろうか?」
と、疑問を持ちました。
「毒素としてのピオシアニン」を避けているのか、それとも「青色色素としてのピオシアニン」なのか?
線虫には鋭い嗅覚が存在するため、常識的には「毒素としてのピオシアニン」を避けているはずです。
近年の研究では、この線虫の鋭い嗅覚を、がん検診に利用する技術も開発されているほどです。
さらに、線虫には目も光を感知するためのオプシンもありません。
しかしゴーシュ氏は、線虫が青色を認識できる可能性を捨てませんでした。
現代科学で証明されているのは、あくまで線虫に目とオプシンがないことだけであり、色が判断できないとは誰も言っていなかったからです。