虫眼鏡などのレンズは、その形により光を屈折させます。
この現象を利用して対象を拡大して見たり、光を集めて火をつけたりできるでしょう。
私たちが利用しているレンズにはさらに規模の大きなものがあります。
それが「重力レンズ」と呼ばれるものです。
虫眼鏡がガラスやプラスチックで光を屈折させるのに対し、重力レンズは重力で光の方向を曲げてしまうのです。
ここでは、遠い星々を観測するのに役立っている重力レンズについて解説します。
重力レンズとは
1915年、アインシュタインは一般相対性理論と呼ばれる新しい重力理論を発表しました。
この理論によると、天体がもつ重力により宇宙空間を進む光線は曲がるとのこと。
しかしこれは「重力に光線を曲げる効果がある」という意味ではありません。
正確には、「重力で周囲の空間が歪み、その空間を直進する光線も結果として曲がる」という意味です。
そしてこの現象は実際に宇宙で起こっており、この効果によって遠くにある星が明るく見える現象を「重力レンズ効果」と言います。
それでは重力レンズの仕組みを考えてみましょう。
宇宙にある星は光源であり、全方向に直線的な光を放っています。そして私たちにはそれらの一部が届き、星の姿を観測できているのです。
しかし、その星が遠く離れていたり光が弱かったりするなら、実際に目で見ることはできません。
ここで役立つのが重力レンズです。星と私たちの間に巨大な天体があるなら、重力によって周囲の空間が歪みます。
結果としてその天体近くを通る光線が曲がり、私たちの目に届くようになるのです。
巨大な天体の重力がいわば虫眼鏡のような役割を果たし、光を集めてくれるのです。
そのおかげで、私たちは本来見えないレベルの星を観測できるようになっています。
重力レンズは歪んだ像を見せる
さて、重力レンズ効果は、星を明るく見せるだけではありません。
重力レンズによって歪められた光線が目に入ってくるので、目はその光線の直線上に星が存在すると認識します。
しかもその光線は様々な角度から目に入ってくるため、星が複数存在しているように見えたり、変形しているように見えたりするのです。
この重力レンズ効果は1919年の日食の間に初めて観測されました。その時の映像によると、星からの光は太陽の重力によって変形していたとのこと。
それ以来、科学者たちは重力レンズを利用してこれまでに観測できなかった遠くにある星を観測しようとしてきました。
しかもその規模は大きく、背後にある銀河や星を観測するために、手前の銀河さえ重力レンズとして利用できるのです。
実際、1985年には銀河LEDA 69457を重力レンズにして、「アインシュタインの十字架」として知られる4つに分裂したクエーサーを観測しました。
また同様に1988年には「アインシュタインの環」とも呼ばれる映像も観測されました。その映像では、奥にある銀河が手前の銀河によって歪んで見えています。