競技パフォーマンスアップに直結するトレーニング「クイックリフト」。2015年全日本ウエイトリフティング選手権大会77kg級チャンピオンの本間智也コーチが解説する短期集中連載、2回目となる今回は「ハイプル」を紹介。前回のハイクリーンが「ちょっと難しかった」という方は、その導入種目としてもトライしていただきたい。
取材:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩 取材協力:BLACK SHIPS
ハイプルとは
ハイプルには前号で解説した「ハイクリーン」、次号で紹介する「スナッチ」とは異なり、バーを受け止める「キャッチ」動作がありません。「キャッチ」まで行うとバーを受け止めた際のバランスなどにも気を付ける必要があります。その動作が省かれている分、より瞬発的な動きに集中できます。ハイプルはバーを引き上げ、真下に重心を落とし込むようにして切り込む動作のみなので、切り返しやバーの引きつけなどに、より集中しやすい種目といえます。
バーは手幅の広い、いわゆるワイドグリップで保持します。この手幅は次号の「スナッチ」と同じなのですが、ワイドグリップで握っているため、上背部、特に僧帽筋上部が鍛えられます。
僧帽筋上部に直接的にアプローチできる種目は意外と少なく、シュラッグくらいではないでしょうか。ハイプルでは僧帽筋をグッと収縮させて肘の引きつけ(プル動作)につなげていき、僧帽筋が強く刺激されます。また、そうした動作を一体感を持って実施することで、「連動」の能力も高まります。
さらに、実際の動作の中で故意に力むのはNGですが、自然と腕全体も鍛えられます。これは実際に行ってみると実感できると思いますが、ハイプルを繰り返すと上腕二頭筋や前腕などがパンパンに張ってきます。
また、肩周りの柔軟性の問題がそこまで大きく影響しない種目であるため、柔軟性の問題でハイクリーンで肘が返らずキャッチができないという人は、導入としてハイプルを行うのもいいと思います。
「肘が返らない」というのは、僧帽筋の柔軟性の乏しさが原因であることが多いです。ハイクリーンで肘が返らない、という人は、まずハイプルを行って僧帽筋にアプローチをかけて、しっかりと引きつけられるようにすると、次第にしなやかになっていきます。
床から引くのではなく、「ハングポジション」と呼ばれる位置から引き上げていく点も、ハイクリーンとは大きく異なる点です。ハイプルでは直立の状態でバーベルを一度引き上げて、そこから胸を張ったまま前傾し下半身にタメを作っていきます。
ここの動作でエラーを起こすと、クイックリフトにとって重要な下半身のタメを作ることができません。「ハングポジション」は胸を張って上半身を立てた状態から重心を下半身に乗せていきます。
ここで先に上半身に重心を乗せてしまうと、下半身のタメが作れず、上半身で煽って挙げるかたちになります。スタートの「ハングポジション」の作り方から注意して取り組んでください。
ハングポジションの作り方
①ワイドグリップでバーベルを保持する。手幅はバーベルを持って直立し、バーが恥骨より少し上の位置にくる幅で。重心は足裏全体に
②胸を張って上半身を立てた状態から下半身に重心を乗せていく
③少しだけ上半身をかぶせる。胸の位置は膝よりも前に出ないように。腕はリラックスさせておく
ストラップの巻き方
手幅が広いとバーベルの保持がキツく、またハイプルは重量を扱うトレーニングであるためストラップを使うのがオススメ! テンションをかけながら巻きつけ、そこで一旦握ってグッと巻きつける。まだ“遊び”があるようであれば、さらにグッと巻きつける。この巻きつけ方の感覚は、やり込むことで次第に感覚が掴めるようになってくる
横から
バーベルが腕と一直線になって膝上にくるように。その位置を基準に前傾することで自然と上半身と下半身の角度が決まってくる