(3)未来の宇宙食材の答え合わせ
では、ビーフシチューに使われたどの食材が衛星データを用いて育てられているor育成の実証が進んでいるのかの答え合わせです。
正解は、以下の4つの食材です。
- ・トマトケチャップ
- ・牛肉(熊本あか牛)
- ・小麦粉(小麦)
- ・赤ワイン(ブドウ)
それぞれどのように衛星データが用いられているのかを解説しましょう。
■トマトケチャップ
まずは冒頭で紹介した、加工品用トマトの育成における衛星データ活用から。
トマトは病気にかかりやすく、害虫もいっぱい出ること、また、雨とか湿気に弱いということから比較的栽培が難しい農作物。
上記以外にも、土壌の選定から、土壌の準備、また、トマトの場合、ほとんどは苗を定植するので、健全な苗の準備や、定植したあとの成長の段階に応じた適切な肥料の量と質の管理が必要……と、管理がすごく難しいことから、海外の農場では、作り手によって出来高に差が出ていたそう。
そこで、カゴメ社とNEC社が協力し、衛星データで見た農場の状態と、匠の農家の行動ログや知識を記録し学習することで、比較的経験の浅い農家でもトマトを育てられる営農システムを開発しています。
■牛肉(熊本あか牛)
実は、本レシピのメイン食材であった牛肉も衛星データ利活用の実証が進んでいる食材のひとつでした。
実証が進んでいるのは、牛舎ではなく、放牧され、主に草を食べて育つ放牧牛です。牛が食べる放牧地の草の量が減ってくると、新しい放牧地に牛を移動させる必要があります。
そのため、放牧地の草がどのくらい減っているかを監視する必要があるのですが、毎日毎時間人が放牧地を訪れて確認するというのは非効率的です。
そこで、衛星データを用いて「牛が食べる草の量」と「放牧地の草の生育状況」を把握し、広大な放牧地へ赴かなくても「放牧地を移す(ローテーションする)時期」および「牧草が回復して再放牧可能な時期」を推定する実証実験が行われています。
また、本プロジェクトは地球観測衛星が取得する衛星データだけではなく、測位衛星から取得した牛の位置情報データも組み合わせて利用されており、宇宙システムを最大限活用した実証実験となっています。
■小麦粉(小麦)
続いての宇宙食材は、小麦粉(小麦)です。
国際航業株式会社が提供する衛星データを用いた営農支援システム「天晴れ(あっぱれ)」を利用することで、北海道の小麦生産者の作業効率を高めることが出来た事例がすでに産まれています。
具体的には収穫時期判断に重要な小麦の穂水分率(穂が含む水分の割合)が衛星データから分かり、「収穫期の穂水分計測の作業が50%以上削減できた」とのこと。
また、2019年の内閣府「課題解決に向けた先進的な衛星リモートセンシングデータ利用モデル実証プロジェクト」でも「衛星データとIoT農業機械による国産パン小麦高収益生産の実証」が採択されており、国産パン小麦の収量および品質を安定化と生育状況の目視判断に必要な労力(数人日)の削減による高収益化が期待されています。
■赤ワイン(ブドウ)
ワインの原料である葡萄の育成にも衛星データの利活用の実証が行われています。
日本で実証を行っていたのは長野県産のワイン用ブドウです。こちらも小麦の実証と同様、内閣府の実証に採択されています。
具体的には、衛星データを用いることで、ブドウの葉の健康状態を確認する他、予測糖度を指標として、管理優先圃場を判断する実証が行われていました。
海外に目を向けると、ワインの名産地であるフランスには、ワイン用ブドウ農家向けアプリケーションを開発、展開している企業もあります。
例えば、フランスのTerraNIS社では、衛星データを用いたエリア別のブドウの生育状況を農家に提供するほか、ブドウの専門家とも協力し、農家のブドウ育成支援を行っています。
以上、ビーフシチューのレシピと、未来の宇宙食材がどのように衛星データを利用して育ているのか(または今後育てられようとしているのか)を紹介しました。
今回紹介した食材以外にも、衛星データを用いて育てられている農作物は多くあります。ぜひ、今後、ごはんを食べる時に「今食べている食材は衛星データを用いて育てられているのではないか?」と考えてみてください。意外な食材が衛星データで育てられているかもしれませんよ?
今回のビーフシチューは、衛星データを用いて育てられているお米「青天の霹靂」と一緒に宙畑編集部で美味しくいただきました。
ビジネス事例
元田 光一
「青天の霹靂」に聞く!衛星データを用いた広大な稲作地帯の収穫時期予測
撮影・企画協力:向井田明(RESTEC)
写真:溝口智彦
文・宙畑編集部/提供元・宙畑
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