住宅購入を検討するときに、住宅ローンをいくら借りられるのかは重要だ。そのときに目安になるのが返済比率だ。色々な要素によって借り入れ可能額は変動するが、無理なく返済を続けていくためにも返済比率に着目し、住宅ローンの借り入れ金額の目安を知っておくとよい。

目次
1.住宅ローンの返済比率とは
2.適正な借り入れ金額を知るための4つの方法
3.住宅選びの前にまずは返済可能額を知ろう

1.住宅ローンの返済比率とは年収に占める年間返済額の割合のこと

住宅ローンの返済比率は具体的にどのような指標なのだろうか。年収をもとに参考にしてみよう。

住宅ローンの返済比率の上限は35%以内が目安

住宅ローンの返済比率は返済負担率とも呼ばれ、以下の計算式で年収に占める年間返済額の割合を表す。

返済比率=年間返済額÷額面年収×100

年収は社会保険料などが引かれた手取りではなく、会社が支給する額面の年収である。源泉徴収票の「支払金額」に当たる部分のことだ。

住宅ローンの返済比率の上限は一般的には35%以内とされている。ただし年収や住宅ローンを借り入れる銀行によってこの数字は変わるので、正確にいくら借りられるのかは住宅ローンの審査を出してみないとわからない。

公的機関が提供する住宅ローン「フラット35」であれば、あらかじめ返済比率が定められている。下の表をみてみよう。

フラット35 年収 返済比率の上限
現在 400万円未満 30%
400万円以上 35%
過去 300万円未満 25%
300万円以上400万円未満 30%
400万円以上700万円未満 35%
700万円以上 40%
(※フラット35のホームページより筆者作成、2020年5月時点)

フラット35は全国の銀行で取り扱いがあり、金利以外の商品内容は共通している。過去に返済比率が細分化されていたが、いまは年収が400万円以上なら返済比率の上限は35%、400万円未満なら30%だ。年収が高いほど返済比率の上限が上がるのは、収入があるほど生活に余裕が生まれやすいためだ。

返済比率から計算した住宅ローンの年収別の借り入れ可能額

返済比率をもとに計算した場合、実際に住宅ローンをどのくらい借りられるのだろうか。返済比率を35%として、金利1%の35年ローンで年収別の借り入れ可能額と毎月の返済額を概算してみよう。計算方法は以下の通りで、今回使う100万円あたりの返済額は2,822円だ。実際にはそのときの住宅ローン金利をもとに100万円あたりの返済額を算出して当てはめてほしい。

(1)年収×返済比率÷12ヵ月=毎月の返済額
(2)毎月の返済額÷100万円あたりの返済額×100=借り入れ金額

年収 借り入れ可能額 毎月の返済額
400万円 4,134万円 11万6,667円
500万円 5,168万円 14万5,833円
600万円 6,201万円 17万5,000円
700万円 7,235万円 20万4,167円
800万円 8,268万円 23万3,333円
900万円 9,302万円 26万2,500円
1,000万円 1億335万円 29万1,667円
(※筆者作成)

ほかの借り入れがあると住宅ローンの返済比率は低くなる

住宅ローンを組むときにすでにほかで借り入れがある人もいるだろう。その場合は、その分だけ借りられる金額が少なくなる。

例えば、年収1,000万円の人で返済比率が35%だと年間返済額は350万円だが、マイカーローンで年間50万円の返済があれば、住宅ローンの返済比率は30%に下がる。その結果、借り入れできる住宅ローンは8,859万円になり、当初の借り入れ可能額より1,400万円以上も少なくなる。

年収1,000万円 借り入れ可能額 毎月の返済額
マイカーローンなし 1億335万円 29万1,667円
マイカーローンあり 8,859万円 25万円
(※筆者作成)

ほかにも住宅ローンの返済比率には教育ローンやスマホ端末の分割代金なども含まれるため、少しでも多く住宅ローンを借りたい人は、既存のローンを完済させてから申し込むほうが有利になる。

住宅ローンの借り入れ可能金額と返済可能金額は違う

住宅ローンの借り入れ可能額は返済比率からある程度計算できる。ただし、あくまで「借りられる金額」であって「借りてよい金額」ではない。借りられる金額をそのまま借りてしまうと、返済に苦労し家計が回らなくなる可能性がある。住宅ローンを借りるなら借り入れ可能額と返済可能額は違うことを認識しておこう。

2.住宅ローンの適正な借り入れ金額を知るための4つの方法

無理のない住宅ローンの借り入れ金額を知るには、返済比率から考える方法や現在の住居費から計算する方法などさまざまなやり方がある。代表的な4つの方法を紹介しよう。

⑴住宅ローン利用者の返済比率を参考にする

住宅ローンは多くの人が借りており、利用者の返済比率を参考にできる。以下は返済比率ごとの住宅ローンの利用割合だ。

返済比率 変動金利 固定期間選択型金利 全期間固定金利
10%以内 12.6% 10.6% 11.4%
10%超15%以内 23.2% 21.8% 19.6%
15%超20%以内 26.4% 30.1% 24.2%
20%超25%以内 18.8% 17.6% 22.8%
25%超30%以内 8.6% 9.6% 12.3%
30%超35%以内 6.2% 5.6% 5.5%
35%超40%以内 1.5% 1.9% 1.4%
40%超 2.7% 2.9% 2.7%
(※住宅金融支援機構『2018年度民間住宅ローン利用者の実態調査【民間住宅ローン利用者編】(第2回)』より筆者作成)

住宅ローンを借りている人の返済比率を見ると、どのタイプの金利でも10%~25%以内の割合がボリュームゾーンになっている。変動金利・固定期間選択型金利でいえば25%超になると急に1桁代の割合に下がるため、それより高い返済比率は一般的ではなさそうだ。

フラット35を参考にした住宅ローンの延滞率は1.56%(住宅金融支援機構『平成30年度リスク管理債権』より)となっている。割合こそ低いが、返済比率が高くなるほど住宅ローンを返済できなくなる可能性は上がる。年収が高ければ返済比率が多少上がっても問題ないこともあるが、やはりリスクは高くなる。住宅ローンは固定費として家計に占める支出割合が大きいため、延滞リスクを避けるためにも過度な返済比率にならないようにしよう。

⑵適正な住宅ローンの返済比率から借り入れ金額を計算する

返済比率の上限は35%以内という話をしたが、一般的に適正な住宅ローンの返済比率は25%以下である。住宅ローンの返済比率を20%以下に抑えられれば理想的だ。先ほどの利用者の実態調査データでも住宅ローンの返済比率の数字が10%~25%に集中していた。おそらく意識的に返済比率が25%以下になるように住宅ローンを借りている人が多い結果だろう。

適正な返済比率で住宅ローンを借りる場合、年収別にいくらになるか比較してみよう。返済比率は適正水準である15%、20%、25%の3パターンとし、金利1%の35年ローンで借りたケースを想定する。

年収 返済比率15% 返済比率20% 返済比率25%
400万円 1,772万円 2,362万円 2,953万円
500万円 2,215万円 2,953万円 3,691万円
600万円 2,658万円 3,544万円 4,429万円
700万円 3,101万円 4,134万円 5,168万円
800万円 3,544万円 4,725万円 5,906万円
900万円 3,987万円 5,315万円 6,644万円
1,000万円 4,429万円 5,906万円 7,382万円
(※筆者作成)

住宅ローンの返済比率の上限目安35%で計算した結果と比べると、借り入れ金額にはかなり差が出る。年収1,000万円の場合、約1億円が借り入れ金額の上限だったが、返済比率25%では約3,000万円も金額が下がっている。

ほかの年収でも同様であり、住宅ローンの借り入れ可能額と返済可能額を比較すると実際に購入できる住宅は絞られてくる。無理なく返済を継続していくためには適正な住宅ローンの返済比率を意識することが大切なのだ。

⑶現在の家賃から住宅ローンの借り入れ金額を計算する

本来は家庭ごとに生活状況が異なるため、その人の家計に合わせた住宅ローンの借り入れ金額を考慮しなければならない。住宅ローンの借り入れ額を考える場合、そのときの家賃をもとにすれば生活状況に合った金額を考えやすい。

計算方法は、現在の家賃に住宅購入のために月々貯めていたお金を足し、そこから購入後にかかる維持費を引く。維持費に入るものは管理費や修繕積立金、駐車場代などで、住宅の規模にもよるが2~3万円程度は見ておいたほうがいいだろう。

ここでは家賃を13万円とし、住宅購入にあてる月々の貯蓄を5万円、住宅の維持費を3万円とする。住宅ローンなどの条件はこれまでの計算例と同じにすれば、以下の結果になる。

(1)現在の家賃13万円+住宅購入用の貯蓄5万円-住宅維持費3万円=毎月の返済可能額15万円
(2)毎月の返済可能額15万円÷100万円あたりの返済額2,822円×100=借り入れ金額5,315万円

住宅ローンの借り入れ金額が返済比率25%以下に収まっていれば、家計への過度な負担はないはずだ。借り入れ金額に余裕がある場合は、返済比率も参考にしながら金額を増やしても問題ない。今後のライフプランまで考えるなら、住宅購入後にしていきたい毎月の貯蓄額を(1)でさらに差し引いて計算するのもいいだろう。

⑷年収の5倍の借り入れ金額なら住宅ローンの理想的な返済比率に収まる

住宅ローンの借り入れ金額をもっとざっくり計算する方法として、年収の5倍程度までの借り入れがよいという考え方もある。年収500万円なら2,500万円、年収800万円なら4,000万円、年収1,000万円なら5,000万円までが目安だ。それぞれの借り入れ金額を金利1%、期間35年の住宅ローンとして返済比率に直すと約17%になる。

年収 年収の5倍の借り入れ金額 返済比率
400万円 2,000万円 約17%
500万円 2,500万円
600万円 3,000万円
700万円 3,500万円
800万円 4,000万円
900万円 4,500万円
1,000万円 5,000万円
(※筆者作成)

住宅ローンの返済比率が20%以下であれば理想的なので、年収の5倍(約17%)はその範囲に収まっている。ただし家庭によって家計状態は異なるので、基本は個別に借り入れ金額をシミュレーションするほうがよいだろう。

3.住宅選びの前にまずは住宅ローンの適正な返済可能額を知ろう

住宅ローンを無理なく返済できる借り入れ金額は、住宅選びをする前からきちんと理解しておくべきだ。住宅ローンの返済可能額を知る前に住宅を探し始めると、予算に合っていない物件を探してしまうこともある。探していくうちに理想が高くなり、無理して購入したことで家計が苦しくなることもあるだろう。

住宅ローンは数十年かけて返済していくものだ。その間に子供の教育費や老後資金の準備が必要になったり、病気やケガで突発的にお金が発生したりすることもあるかもしれない。万が一に備えられる家計づくりのためにも、返済が負担にならない範囲で住宅ローンを借りるようにしよう。

執筆・國村功志(ファイナンシャルプランナー)

大手証券会社で株式・債券・投資信託などの金融商品販売に携わる。その後、ファイナンシャルプランナーの養成団体やFP事務所を経て、現在は資産形成ファイナンシャルプランナーとして活動。個人の資産運用経験も活かし、金融機関や一般の人向けに毎月セミナーも行っている。CFP®️、証券外務員一種

【関連記事】
住宅ローン控除は2年目以降も確定申告が必要か?忘れた場合はどうなる?
住宅ローンをこれから組むなら変動金利と固定金利のどっちが得か
40代で家を買うのは遅過ぎるのか?住宅ローンを組むときのポイントは?
住宅ローンは年収800万円でいくらまで組めるのか
iDeCo(イデコ)と住宅ローン控除の併用がデメリットとなるパターンとは