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今回の写真はどうやって撮影されたのか?
一体そこには何が写っているのか?
今回の写真はどうやって撮影されたのか?
まず重要な点として、ここまでさんざん光と表現してきましたが、実際写真に映っているのは可視光ではないということに注意してください。
さきほども説明したように、地球から「いて座A*」への視線方向には多くの障害があり、可視光は遮られてしまい現在の技術で見ることはできません。
しかし、赤外線や電波波長の光ならこれらの障害を乗り越えて地球まで届く可能性があります。
これは夕日が赤くなるのと似た原理です。
波長が長い赤い光は、大気中の粒子に遮られにくいため夕日は赤く染まって見えます。
赤外線や電波は、赤い光よりもさらに波長の長い光(電磁波)であり、宇宙の塵などに遮られても遠くまで届く可能なのです。
とはいっても、目で見るように単純な話ではありません。
観測されているのは電波強度というデータであり、この状態では私たちに目で確認できるようなイメージは存在していません。
今回の撮影では、世界中にある複数の電波望遠鏡が集めたデータから、3D空間上の電波の強度を計算し、その各強度レベルに色を割り当てることで我々が目で見ることのできる写真画像を作成しているのです。
電波観測は人の目には見えない波長の光を可視化するものなので、ここにどんな色を付けるかによってだいぶ印象の異なる写真を作り出すことができます。
今回の写真制作を実現したのは「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」という世界中の電波望遠鏡の非常に強力なネットワークです。
EHTは物理的につながったネットワークではありませんが、原子時計によって観測データが正確に同期されています。
これらの観測データを統合して、今回の画像は作り出されているのです。
そのため、撮影とはいうものの、もっとも重要な点はデータの解析と補正を行う高度なアルゴリズムや、複雑な作業にあります。
上の画像を見ると分かる通り、この観測では南極の電波望遠鏡も使用されています。
この観測データはあまりに容量が大きいため、インターネット経由で送信することができず物理的に輸送するしかなかったといいます。
そのため大変手間のかかった研究成果なのです。
しかし、今回の撮影画像が、偉大な成果であることはわかりましたが、素人目にはぼんやいりしたオレンジの輪っかにしか見えません。
ここに写っているものから、一体どんなことがわかるのでしょうか?
一体そこには何が写っているのか?
これは、今回撮影された「いて座A」と、2019年に撮影された「M87」の近傍と遠方からの撮影画像の比較です。
「いて座A」の方がリングの端にぼやけたポイントが多いように見えますが、これはさきほど説明した通り、「いて座A」の方が変化が目まぐるしくノイズとなる要素が多いためです。
電波観測により、鮮明な画像を得ることが難しいことはここからも伺えます。
遠方からの画像と比較すると、「M87」ではブラックホールジェットと呼ばれるガスの噴出が起きていることがわかりますが、「いて座A」ではジェットは確認されていません。
(右側の画像の下にある、右方向へ流れるガスがジェット)
ジェットは未だに天文学においては未解明の問題の1つで、それがどのような現象であるかは未だにはっきりとしていません。
ブラックホールの時点エネルギーを用いて噴出されるという説が有力ですが、今回の観測はそれらの理論について検証するヒントになるかもしれません。
また、2つのブラックホールはサイズも地球からの距離もまるで異なりますが、画像の縮尺を合わせてもほぼ同じように写っているのがわかります。
これは「M87」は「いて座A」より質量が3桁大きいのに対して、地球との距離は「いて座A*」より3桁遠いことによって、それぞれのサイズ感の差が相殺されているためです。
このため2つのブラックホールはほぼ同じリングの画像として見えるのです。それにしても、ぼんやりしたこの画像では、実際どういう状況が写っているのかあまりうまくイメージできません。
NASAは「M87*」の画像に写っているものについては、その意味を説明するためのシミレーションを公開しています。そちらを見てみましょう。
なんだか不思議な姿に見えますが、ブラックホールの画像では片側が明るく反対のリングは暗く見えます。
この理由はブラックホールが光速に近い速度で回転しているためで、手前に向かって回転している部分はドップラー効果によって輝きが強化されて見え、遠ざかるように回転している部分は逆に光の勢いが減衰されるためです。
またブラックホールの円盤は、なぜか上下に流れる部分も見えていますが、これはブラックホールの後ろに回り込んだ光が、強力な重力によって進路を歪められたことによるものです。
後ろの光が前からも見えてしまうわけですね。
「M87」と「いて座A」の見え方はほぼ同じ為、どちらでもこのような現象が起きていると考えられます。
こちらは「いて座A*」の理論モデルの画像です。
ほぼ同じようにブラックホールが撮影できたのは、これらが理論モデルと非常に近いものであることの証でしょう。
この観測事実から、ブラックホールの謎はより多く解明されていくかもしれません。
とうとう人類は自分たちの属する銀河の中心さえも目視で確認できるようになりました。
ただ、残念がら現在撮影可能なブラックホールの候補はこの2天体だけなのだといいます。
次にブラックホールが撮影されるのは、技術的に10年以上先になるのではないかと研究者は予測しています。
しかし、着実に進化している観測技術と研究者たちの努力は、今後も宇宙に関するう大きな驚きを私たちに届けてくれるでしょう。
参考文献
Black hole Sgr A* unmasked
The Event Horizon Telescope collaboration has obtained the very first image of Sagittarius A*, the supermassive black hole at the heart of our Galaxy
BREAKING: We Have The First-Ever Image of The Black Hole at The Center of The Milky Way
天の川銀河中心のブラックホールの撮影に初めて成功
元論文
First Sagittarius A* Event Horizon Telescope Results. I. The Shadow of the Supermassive Black Hole in the Center of the Milky Way
First Sagittarius A* Event Horizon Telescope Results. II. EHT and Multi-wavelength Observations, Data Processing, and Calibration
First Sgr A∗ Event Horizon Telescope Results. III. Imaging of the Galactic Center Supermassive Black Hole
First Sagittarius A* Event Horizon Telescope Results. IV. Variability, Morphology, and Black Hole Mass
First Sagittarius A* Event Horizon Telescope Results. V. Testing Astrophysical Models of the Galactic Center Black Hole
First Sagittarius A* Event Horizon Telescope Results VI: Testing the Black Hole Metric
提供元・ナゾロジー
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