加圧トレーニングで「筋肉を育てる」効果はこれまでご紹介した通り。では、加圧トレで骨を強くすることも可能か?骨の構造や生まれ変わりのメカニズムとともに検証していきます。

文:IM編集部

筋肉を育てるように体の根幹「骨」も育てよう?

身体を大きくするためには、トレーニングジムで多くの時間を費やして超回復を何度も行うことが重要です。「筋肉を育てる」とはよく言ったもので、筋肉は決して1日で劇的に変化するものではありません。多くの時間と日数を費やし、継続的に行っていくことによって形成されるのは、皆さんご存知の通りです。

ですが、その筋肉よりもある意味、運動を行う上で重要なものがあります。体の根幹を支えている骨格、すなわち「骨」です。どんなに強い筋肉も、しっかりした強い骨があって初めて、より強度、密度の高いトレーニングを行うことができます。では、しっかりした強い骨を手に入れるには? 今回は体の中でも骨に焦点を当ててご紹介してみたいと思います。まずは骨の構造について、おさらいしてみましょう。成人の場合、一般的に私たちの体は206個の骨でできていると言われていますが、その一本、一本は三層構造です。

一番外側の骨膜には「骨芽細胞」という骨を作る細胞や血管などが張り巡らされ、骨膜の内側にある「皮質骨」はカルシウムやリンを多く含む硬い骨。さらに一番内側にある「海綿骨」は海綿状の比較的柔らかい骨で、この中で血液が作られています。

大人になっていくにつれ身体の成長は落ち着いていきますが、成長が止まった時点で骨の変化成長も止まると思っている人は、意外に少なくありません。もちろん、これは間違い。体の成長が止まっても、私たちの骨は常に新しいものに再生されています。そのメカニズムを少しだけご紹介しましょう。

骨細胞には骨を作る役割をもつ「骨芽細胞」と、骨を壊す役割を持つ「破骨細胞」があります。この破骨細胞が骨を吸収すると、その吸収された部分に骨芽細胞が現れ、吸収と同じ分だけ骨を形成していきます。冒頭に「筋肉を育てる」と書きましたが、骨の場合もこの骨吸収と骨形成を繰り返すことで活発に新陳代謝が行われ、古い骨と入れ替わって「新しい骨が育つ」状態になるわけです。

この新陳代謝の過程は、骨の「リモデリング」と呼ばれています。では、私たちの骨はどれくらいの期間でリモデリングされるのか。個人差はありますが、一般的には骨の再生には2ヵ月から5ヵ月かかると言われています。ただ、骨吸収の期間は数週間から長くて1ヵ月とされているのに比べ、骨形成は数ヵ月かかる。つまり「急激な吸収→ゆるやかな形成→休息」というのがリモデリングのサイクルのようです。

私たちの骨が一定の骨量をキープできるのは、骨吸収と骨形成が同量・同等に行われているからです。では、両者のバランスが崩れ、骨吸収の量が上回った場合、どうなるか。例えば高齢者に多い骨粗鬆症や関節リウマチなどの骨の病気になる可能性を一気に引き上げてしまうのです。

人間の最大骨量は20歳がピークとされ、50歳前後から加齢に伴い減少を続けていくといいます。ですが、デスクワーク中心の生活が続く現代では年齢に関わりなく弱い骨、もろい骨になりやすい危険を常にはらんでいます。強い骨を作るためには先ほどとは逆に、骨形成が骨吸収を上回ること、つまり骨を作る骨芽細胞を増やすことが重要となります

痛みの緩和から杖なし歩行階段の上り下りまでできた

本連載の主要テーマである「加圧トレーニング」も、実は骨の生成や強化と深く関わっている可能性が高いのです。加圧トレーニングでは、腕や脚の基部(付け根)の部分を専用ベルトで加圧し、血流制限をした状態で行う筋力トレーニングです。その最大の特徴は、「超軽量負荷、短時間、短期間」で成長ホルモンを獲得できることです。

この成長ホルモン、特に肝臓より産生されたIGF―1(インスリン様成長因子)が骨の成長を促進し、成長ホルモンが直接的に軟骨細胞や成長板前駆細胞の増殖を促進している可能性があることが分かってきました。

例えば怪我の治療などにおいても、加圧トレーニングによる骨形成が短期で改善される症例が多く報告されています。その一例として、60歳以上に多く見られる大腿骨内顆骨壊死症の症例を挙げてみます。

大腿骨内顆骨壊死症とは文字通り、太ももの骨の内側にある「顆部」という部分に骨の壊死が生じてしまう病気です。中高年の女性に多く見られますが、膝の激痛に悩まされたり、人工関節の手術を余儀なくされたりする人も多く、歩行困難、ひいては寝たきりの引き金になることもあります。

ここで紹介する症例の場合、初診時には杖歩行で疼痛が顕著だった人が、加圧トレーニング開始後1~2か月で疼痛の緩和が見られ、3ヵ月で杖なし歩行、6ヵ月で手すりを使用しての階段歩行が可能になりました。さらに、2~3ヵ月後には手すりを使用しなくても、階段の上り下りができるまでに。MRIでは、骨組織のリモデリングによって骨壊死領域が明らかに縮小している所見が見られたということも報告されています(KAATSU JAPAN ㈱資料提供)。