なぜ「留め具」で体を固定する必要があったのか?

ロッソ氏は、その使い方について、次のように説明します。

「まず、メスが海底に身を横たえ、その上にオスが乗っかります。このときオスは、メスの上にぴったり重なるのではなく、少し後ろ気味にずれて覆いかぶさります。

そして短い付属肢で、その真下にあるメスの胴体後部から生え出るトゲをつかんで、体を固定していたのです」(下図を参照)

体を固定することの重要性について、ロッソ氏は「メスが卵を放出したときに、オスが正しい位置にいるようにするため」と指摘します。

これまでの研究で、三葉虫の交尾は、現存する子孫のカブトガニと同じく、体のどこかにある生殖孔からメスが卵を放出し、そこにオスが精子をかけていたと考えられています。

つまり、的確なポジション取りによって、オスはメスの放出する卵を受精させられる可能性が高まるのです。

5億年前の「三葉虫の交尾方法」をついに解明!pendages-dis-900x440.jpeg
(画像=(a)メスに被さるオスの付属肢の配置(中央の短い脚が留め具)、(b)交尾のイメージ図 / Credit: Holly Sullivan – SULLIVAN SCIENTIFIC(2022)、『ナゾロジー』より 引用)

また、ロッソ氏はこう述べています。

「もう一つの保存状態のよいO. セラトゥスの化石には、留め具がありませんでした。これはおそらく、メスの個体でしょう。

このことから、O. セラトゥスは、オスとメスで異なる特徴を持つ”性的二形”だったと考えられます」

実際に、「留め具」を使った交尾戦略は、現代のカブトガニにも見られ、オス同士がメスへの”固定権”をめぐって、激しいバトルを繰り広げます。

ヒートアップするあまり、ライバルの「留め具」を引き剥がすこともあるという。

もしかしたらO. セラトゥスも、1匹のメスをめぐるオス同士の争いがあったかもしれません。

一方で、今回の研究成果について、ロッソ氏は「この交尾戦略をすべての三葉虫に当てはめることは避けるべき」と注意を促します。

あくまでも、「留め具」としての付属肢は、O. セラトゥスで初めて見つかったのであり、三葉虫全体に共通したものではありません。

三葉虫は3億年近くも繁栄したのですから、交尾方法も時代や環境に応じて変化した可能性はあるでしょう。

それでも、O. セラトゥスの交尾法は、現代の節足動物にも広く受け継がれていることから、かなりポピュラーな方法だったのかもしれません。

提供元・ナゾロジー

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