ヒントが日経新聞の記事に書かれていた。
出生動向基本調査(15年)によると夫婦が理想の子ども数(平均2.32人)を持たない理由として最多だったのが「子育てや教育にお金がかかる」(56%)。
1985年以降国民の生活が苦しくなったわけではないだろうが、子供を持たない理由を本人がそう答えているのだから国民の所得や金融資産の推移の実態がどうあろうと関係ない。はっきりと読み取れるのは、子供を作ってもその子の幼稚園、小学校、中学校、高校と続く教育期間に対し、自分の将来の収入に対する自信、言い換えれば希望を持てない、という20代の若い人にとっての親としての本音の現れである。現実としてはさらに、妊娠期や出産費という出生のトリガーに対する抵抗感もあるだろう。
56%という数字は過半数であるから、子供を持たない最大の原因がここにあることを示している。少子化対策としてこの原因を除去すれば、計算上56%の夫婦は出生数を2.32にしてくれる。
ここで国民の所得分布を概観する。以下は3年に一度行われる厚生労働省の「国民生活基礎調査2019」からの資料に基づく。国民の年間世帯平均所得は550万円ほどと十分だが、分布をみれば300万未満の国民が三分の一を占めている。この中には年金生活者とともに、定職に付けない若者や給与の低い中小企業に勤める若者もかなり含まれるだろう。上記の56%はこの階級の夫婦と考えて良い。
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さらに具体的な資料がこちら。世帯主が30歳未満の世帯の平均の年収は360万円。平均であって、上図の分布から年収が200万円台の世帯も半数近くいるだろう。
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この世代の貯蓄額を見る。世帯主が30歳未満の世帯の貯蓄額は平均でも180万円。大企業等に就職し将来の収入がほぼ約束されている人以外は、現状の貯蓄額と収入を鑑みた時、子供の子育てや教育に責任を持てないと感じるのは当然であろう。
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以上縷々示したように少子化の本質は明らか。子供の育児から教育に対する金銭的不安が、出生を阻んでいる。よってこれらの世帯に対しする金銭的不安の解消に焦点を当てれば、少子化対策は著しい効果を上げるはずだ。
日経新聞の記事には、金銭的不安を解消とまではいかないものの何らかの金銭的支援をすることにより、合計特殊出生率が0.46以上増加することに成功した地方自治体の実例がリストされていた(右の表)。少子化対策担当大臣が20人歴任しても0.08しか上げられなかった実績に対しする0.46は劇的な数字で、国全体で同じ効果が得られれば2020年の1.34現状が1.80に達する。
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記事にはこれらの地方自治体の具体的な施策例も掲載されていた。いずれも限られた予算内で創意工夫を凝らしたものであるが、金額的にはつましいものである。それでも劇的な効果が認められるのであるから、本質的な改善を行えば全国的な合計特殊出生率の1.80以上の達成すなわち出生数の増加は容易と思われる。
実際の対策は専門家や国会で詰めていただければよいが、具体的な施策としては以下のようなイメージとなるだろう。対象は、例えば、前年度の世帯主の収入240万円以下の子供の生まれた世帯、とでもすれば良いだろう。年齢制限はなし。ただし世帯の年収が400万円を超えた翌年から支援は中止する。
- 妊娠確認以降の医療費無料化と毎月支援金1万円の支給
- 出産時に50万円の支給
- 乳児期の毎月の支援金
- 保育園もしくは幼稚園から高校卒業までの諸コスト無料化
- 生後から高校卒業までの子供の医療費無料化
次の問題はコストと財源。合計特殊出生率が1.34から1.8程度に上がると出生数は約113万人、2020年の84万人にくらべ約30万人の子供が増えることになる。仮にこの子たちすべてが上記支援の対象となるとしよう。一人当たりのコストは、1年目50万円、2年目以降20万円とすると18年間で390万円。総額を約500万円として単純化すると、1年目は一人50万円で良いので1500億円、以降子供の数の増加に伴いコストも毎年増加、18年目以降の年間のコストは対象者が30万人一定として恒常的に1.5兆円になる。
現実的な計算も専門家に任せるが、オーダーとしては大きな違いはないだろう。コロナに対する経済対策で昨年国民に全員に支給された一人10万円の支給総額が13兆円、大半が貯蓄に回ったことを考えれば、対費用効果は桁違い。年間の国家予算が100兆円という現状において、優先順位を政治主導で行えば当初の千億円規模はもちろん、恒久的な1.5兆円規模の少子化対策費の捻出も容易だろう。放置すれば日本は消滅するのだから。
文・加藤 完司/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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