皆さんは普段、どれくらい「空想」や「妄想」にふけっているでしょうか?

ちょっとの隙間時間や寝る前に空想することはいたって普通ですが、人によっては、1日に何時間も空想の世界に没頭してしまうこともあるかもしれません。

ただ過度な空想好きは集中力の欠如や、人間関係の構築に影響するため、「不適応性白昼夢(Maladaptive daydreaming、MD)」という一種の症状名が付けられています。

これはまだ正式な精神疾患としては認識されているわけではなく、たいていの場合、「注意欠如・多動症(ADHD)」とまとめて診断されることがほとんどです。

しかしこのほど、イスラエルのネゲヴ・ベン=グリオン大学(Ben-Gurion University of the Negev)の研究チームは、MDが、ADHDに見られる注意欠陥とは違うことから、両者を区別すべきである、と主張しました。

果たして、MDとADHDの空想には、どんな違いがあるのでしょうか?

研究の詳細は、2022年3月31日付で学術誌『Journal of Clinical Psychology』に掲載されています。

目次
MDとADHDの空想は何が違うのか?
MDの症状はADHDでは説明しきれない

MDとADHDの空想は何が違うのか?

ADHDの人の中には、空想に耽ることを原因とした注意欠陥が確認されています。

では、社会生活に支障を来すレベルの空想好き(MD)の人は、ADHDであると見なすべきなのでしょうか?

しかし研究チームによると、MDとADHDの空想には、以下の違いがあるといいます。

まず、MDは「意図的・意識的に」過剰なほど詳細な空想に自己を没入させるものです。

それにより、注意力が阻害され、日常的な認知機能に支障が出たり、不安症や孤独感といった精神疾患を起こします。

一方のADHDは、今行っているタスクと無関係な思考に「自動的・散発的に」注意が移るものです。

そのため、ADHDにともなう空想は「マインド・ワンダリング(mind wandering、心がぶらつく状態)」と表現する方が適切であると指摘されます。

本研究主任のニリト・ソファー=デュデク(Nirit Soffer-Dudek)氏は「もし、あなたの空想が、一時的な心の迷いから生じる注意散漫であるならADHDを、精巧な物語や鮮明な風景の中に強迫的に惹きつけられるならMDを示す」と説明します。

「過剰な空想好き」は新たな分類の精神疾患かもしれない
(画像=MDとADHDの空想の違いは意識的か無意識的か / Credit: jp.depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

両者は確かに、注意力が低下するという点で症状に重なる部分がありますが、デュデク氏は、以前の研究と今回の研究の結果を合わせて、「MDとADHDは区別すべきである」と指摘します。

まず、以前の研究では、MD症状を示す40人の患者を集め、一人一人に詳細な臨床診断を行いました。

すると、77%がADHDの基準を満たしていたものの、大半は「不注意のみ(多動性なし)」を示しています。

またアンケート調査によると、患者は、課されたタスクに集中できない理由について、「自発的に空想にはまった結果だ」と回答しており、彼らの症状の多くは、ADHDと見なすより、MDによってよりよく説明されました。

これらの点から、デュデク氏は「MDとADHDのラベリング(区分け)が不正確なのではないか」と考えました。