ウエイトトレーニングの世界では「ゆっくりしたスピード」でレップを繰り返すのがいいとされている。特にウエイトを下ろすときはできるだけ丁寧に行うことで、より強烈な刺激が筋肉にもたらされるので、筋発達も確実に得られるというわけだ。また、ゆっくりしたスピードで動作を行えば、対象筋をより長く緊張させることができる。これもまた発達を促す要因になる。ならば、筋発達のためのウエイトトレーニングに素早い動作は無用なのだろうか?
文:William Litz 翻訳:ゴンズプロダクション
速い動きが推奨されるケースはある。例えばスピードレップスや、エクスプローシブ・トレーニング、コンパルソリー・アクセラレーション・トレーニングという名称を聞いたことがある人もいるかもしれない。これらはいずれも素早い動作で行われ、筋力&筋量増加に効果的なトレーニング法なのだ。
アスリートにとって瞬発力や動作スピードを向上させることは、競技成績に直結することなのでとても重要視されている。例えばフットボール競技などでは、瞬発力を高めるためのトレーニングは多くの選手にたくさんの恩恵をもたらしてきたのである。
しかし、ウエイトトレーニングによって肉体を作り上げるボディビルディングやフィジークは、走る、投げる、ぶつかる、跳躍するなどの動きで対戦する競技とは根本的に異なる。
果たして筋量アップを目的とする我々にとっても、スピードを速めたトレーニングはプラスになるのだろうか。
「素早い動作」は1RMに匹敵する
筋発達を目指している私たちは、高重量を扱うことこそ筋量増加につながると確信してきた。ゴーヘビー・オア・ゴーホーム(高重量に挑戦しないなら、家に帰れ)というフレーズも、高重量信仰から生まれたものだと思われる。
高重量でのトレーニングが筋発達を促すことはわかっているわけだから、あえて軽重量を用いる必要性はない。ならば、素早い動作での運動も必要ないと考えるのが普通だ。
しかし、軽い重量を素早い動作で繰り返すトレーニングは、出力レベルを高め、筋力向上に役立つことが知られている。ここでの「軽い重量」とは、通常のトレーニングで用いる重量の半分程度だ。
パワーリフティング界の伝説、フレッド・ハットフィールドは、素早い動作でのスピードトレーニングを取り入れていた。1987年に45歳という年齢で459.9kg(1014ポンド)のスクワットを成功させたハットフィールドだが、日頃のトレーニングでは362.9kg(800ポンド)を超える高重量を扱うことはほとんどなかったそうだ。
扱っていた重量は決して高重量ではなかったにもかかわらず、動作スピードを考慮すると、ハットフィールドが行っていたトレーニングでは453.6kg(1000ポンド)以上の負荷がかかっていた計算になる。
彼が用いていたのは軽い重量だが、素早い動作でレップを繰り返した結果、すさまじいレベルにまで筋力を伸ばすことに成功したのだ。
一般的に、高重量で動作を行うと負荷の大きさに応じて筋肉の緊張は増す。一方、高重量に満たない軽い重量で、高重量と同じ筋緊張レベルを得ようとすると、可能な限り動作を加速させてレップを繰り返す必要がある。ハットフィールドが用いたのはこの考え方だ。
彼は1RM(1レップが行える最大重量)を伸ばすために、1RMに満たない重量をセットし、それを素早い動作で繰り返しながら、1RMを使ったときと同じレベルの筋緊張状態を得ていたのである。だから、普段のトレーニングで高重量を扱わなかったにもかかわらず、大会などの公式の場で高重量のスクワットに挑み、成功させることができたのだ。
スティッキングポイント克服のために
1RMに満たない重量で素早い動作を繰り返すハットフィールドのトレーニング法は、ケガの予防に役立つ。また、瞬発力を使った動作は、種目の動作で力が出にくい可動域を強化してくれるため、いわゆるスティッキングポイントの克服につなげることができる。
パワーリフティングを観戦した人ならわかると思うが、多くの選手が可動域の中間地点あたりで挙上に失敗している。
例えば、スクワットならボトムからトップに立ち上がるときの中間地点あたりがスティッキングポイントになる。このスティッキングポイントを克服するひとつの方法が、軽い負荷で瞬発力を使ったトレーニングなのだ。
瞬発的に力を発揮する動作を繰り返すことで、難所であるスティッキングポイントを越える力を養うことができるのだ。
スピード優先、重量は二の次
瞬発的に挙上するスピードトレーニングの効果を最大限に得るには、とにかく動作のスピードを最優先させることだ。使用重量は二の次で、素早い動作が繰り返せる範囲で重量を決めていく。当然ながら、先に重量を決めてしまうと思ったようなスピードで動作ができなくなるので効果を引き出すことはできない。
ちなみに、ここで言う「スピード」とは、スタートからトップまで1秒でウエイトを押し上げる程度の速さのことだ。このスピードで実践してみて、翌日、だるさが残るようであれば次のワークアウトでは重量を少し軽くしてみよう。