どれだけもがいても、抜け出せない「沼」がある。姿勢を変えても、やり方を変えてもエネルギーと時間ばかりが浪費されていく……。トレーニングでもそんな経験をした人は大勢いるだろう。順調に伸びていたのに、いつしか使用重量や体重の伸びが止まり、停滞が続いて、意欲までもが削がれていく。そんな状態を私たちは「プラトー」と呼んでいる。そして間違いなくその状態から抜け出すのは至難の業なのである。ウエイトリフティングの世界では、多関節種目の挙上重量が全く伸びなくなった状態が3週間続いたときに「プラトーに陥った」と認識されるそうだ。どういうときにプラトーに陥るのか。そこから抜け出すための手段はあるのか。今回はもがき続けて疲れ果ててしまったトレーニーのための記事である。
プラトーは発達が遅いことではない
プラトーは発達が止まってしまった状態を指す。トレーニーの中には、発達がとても遅い状態をプラトーだという人がいるがそれは誤解である。発達がどれだけゆっくりであっても、伸びていることには違いはない。そういう状態はプラトーではなく、ただ単に発達スピードが遅いということなので混同しないようにしよう。
誰しもトレーニングを開始した当初は、ものすごい勢いで筋力が伸び、体型が変わっていったはずだ。体脂肪の減量までもがスムーズに進んだという人もいるだろう。この調子で筋力が伸びて体型が改善されれば、1年ほどで見違えるような自分に生まれ変われる! そんな期待もあったはずだ。
ところが、しばらくすると発達の勢いが失われていることに気がつくはずだ。筋力の伸びも鈍化し、わずかな筋量増加に何週間もかかってしまう。そんな時期が来たら、ワークアウト内容を変化させ、同じ刺激に慣れてしまった筋肉に活を入れる必要がある。
快適な環境の中では、筋肉は反応してくれない。トレーニングに例えるなら、楽に行える運動なら筋肉は刺激を受けず、発達反応を示すことはないのだ。筋発達のスピードを落とさないようにするには、トレーニーは常に新たな目標を定め、その目標に到達するためによりハードなワークアウトを続ける必要がある。ワークアウトは楽に行えるようなものであってはならない。自分にとってきついと感じるような内容でなければならないのである。
特定の大筋群、あるいは複数の大筋群の筋発達スピードが落ちた、あるいは停滞しているという状況が3週間以上続いているなら、それはプラトーに陥っていると判断していいだろう。プラトーに陥っているなら、そこから抜け出すためのやり方を学び、実践することが必要である。
プラトー脱出のための5つの方法
その1:フォームを見直す
皆さんはどの種目も正しいフォームで行えていると自信を持って言えるだろうか? フォームの崩れに気づかずにいると、いつの間にか対象筋に十分な刺激を与えられなくなってしまう。つまり、間違ったフォームでの運動はエネルギーと時間を無駄に浪費するだけなのだ。どうして間違ったフォームでの動作は無駄なのか。まず第一に、間違ったフォームでは対象筋への刺激を分散させている可能性が高い。本来、対象筋をメインにしてその種目の動作を行うべきなのに、間違ったフォームで行えば他の筋肉が余計に参加してしまい、刺激が分散されてしまう。当然、そんなトレーニングをどれだけ行っても対象筋の発達は望めない。つまり、時間とエネルギーを無駄に浪費するだけに終わってしまうというわけだ。
また、間違ったフォームで種目を行うと、それがケガの原因になることもある。間違ったフォームに慣れてしまうと、動作に変な癖がついて筋力のアンバランスが起きやすくなる。その結果、弱いまま放置されてしまった部位はケガをしやすい状態になってしまっているのだ。
一般的に、使用重量が重くなればなるほどフォームは崩れやすい。もしかしたら自分のフォームは崩れているかもしれないという心当たりのある人は、ぜひ次の事柄を確認して正しいフォームを身につけよう。
●信頼できるサイトで種目の動画を見て動きを確認してみる。
●鏡の前でウエイトを持たずに種目の動作を行ってみて、動画で見た動作と一致しているかどうかを確認する。
●自分の動作を動画に撮って自己診断をしたり、できればトレーナーやコーチなど、トレーニングの専門家に確認してもらう。
●信頼できるトレーナーの指導を仰ぐ。
●トレーニング歴が長く、知識のあるジム仲間と一緒にトレーニングをさせてもらう。
正確なフォームをマスターするには反復練習が必要だ。その場合は使用重量を軽くする必要があるが、そのステップを踏んででも正確なフォームを身体にしっかり覚え込ませたほうがいい。それが今後の向上につながるはずだ。 フォームの矯正段階で、筋力などが一時的に後退したとしても、先々の大きな進歩につながることなので、ぜひ早い段階で正確なフォームをマスターしよう。
その2:漸増負荷抵抗を再確認する
正確なフォームがマスターできたら、あとは適切な負荷をかけて対象筋を的確に刺激していくだけだ。だらだらと長く運動を続ける必要はない。必要なのは確実に対象筋を刺激することである。確実に対象筋を伸ばしていくためには、行っている運動が筋肉にとって刺激にならなければならない。つまり、正確なフォームを維持できる範囲での高重量を扱い、対象筋を追い込むことが必要になる。そういうトレーニングを続けていくことで必ず筋力は伸びる。筋力が伸びればさらに使用重量を増やしていけるわけで、そのタイミングをできるだけ逃さないようにしよう。
前回のトレーニングと同じ重量、同じレップ数でやってみて、少しでも楽に行えれば、それは筋力が伸びている証拠である。次回から使用重量を増やして、筋肉にとって「刺激」になるようにしよう。動作(トレーニング)を「刺激」にするには以下のやり方がある。
●使用重量を増やす。
●セット内で行うレップ数を増やす。
●トレーニング頻度を増やす。
●セット間の休憩時間を短く制限する。
●前記した4項目の中から2つ、3つ選んで組み合わせる。
ワークアウトのたびに少しずつ負荷を強めていく方法の中で、一番手っ取り早いのは使用重量を増やすやり方だ。しかし、どこまでも際限なく増やしていけるわけではない。ある程度のレベルまでいくと、それ以上は増やせなくなる。
では、重量を増やせなくなったらどうすればいいのか。次に管理しやすいのはセット数を増やすことだ。今まで10~12レップ×3セットを行っていたなら、10~12レップ×4セットにしてみる。ただし、セット数を増やすなら多関節種目のみに限定したほうがいいだろう。
トレーニング頻度を増やすというのも負荷を強めるための手段である。週1回のジム通いで筋発達を望むのは難しい。複数の部位を組み合わせてワークアウト頻度を週2回にするなど、トレーニング頻度を増やせるようなスケジュールを組むことも、個々の部位への刺激度を高めることになるので試してみよう。
セット間の休憩時間を短くすると、ワークアウトの内容が凝縮されるため、これもまた強度を高めることになる。ジムでトレーニングしている人の中には1セット終えるごとにスマホを長々と眺めている人もいるようだが、セット間の休憩時間を短くし、息が整ったらすぐに次のセットを開始するようにすれば運動強度を高めることができるので試してほしい。
筋肥大に適したセット間の休憩時間は30~90秒以内であるという科学的な検証結果もある。筋力向上を優先しているなら、高重量を扱ってセット間休憩を長くとるのが一般的だが、筋肥大が今の目的ならセット間休憩を短く制限して行ってみよう。
その3:限界まで追い込む
筋発達を起こすには強い刺激が必要になる。楽なトレーニングをいくら続けても筋肥大は起きない。限界まで追い込むほど強度を高めたやり方は猛烈な苦しさを伴うが、結果につながりやすい。
では、この「限界まで追い込む」とはどういうことか。これについては人によって捉え方がまちまちだが、大まかに分けるなら以下の2つではないだろうか。
●これ以上1ミリもウエイトを動かせない状態まで動作を続けること。
●正確なフォームを維持しながら、あと1レップやるのは困難だという状態まで続けること。
皆さんにはぜひ後者の解釈で限界まで追い込んでほしい。
限界まで追い込むやり方にはいくつかの高強度テクニックがあるので、それをワークアウトの中で実践してみよう。ただし、全種目の全セットに高強度テクニックを使うわけではない。第一、そんなことは不可能だし、仮にそれができたとしても体は疲労困憊してしまい、次回のワークアウトまでに十分な回復が望めなくなってしまう。
高強度テクニックを取り入れるのは、種目の最後のセットのみで十分である。高強度テクニックの乱用は中枢神経まで過度に疲労させることになり、そのタイプの疲労はワークアウト効果を著しく損なうことになるので注意が必要だ。
高強度テクニックを選択した種目の最後のセットのみに行うことで、対象筋に強烈なアナボリック作用をもたらすことができる。高強度テクニックを覚えるとついつい多用してしまいがちだが、強烈な刺激を与えすぎれば逆効果になるということを忘れないようにしてほしい。
その4:睡眠時間を増やす
良質の睡眠をとることは筋発達を促す上で欠かせない。そもそも、睡眠不足の状態ではワークアウトを効率よく行うことはできないのだ。特に高強度トレーニングを行うなら、疲労回復に欠かせない睡眠が十分でないと明らかにマイナスになる。少なくとも7時間、理想は8~10時間の睡眠を毎日とるように心がけよう。
筋発達反応が最も活発になるのは私たちが眠っているときだ。眠りにはパターンがあるのだが、深い眠りに入っているとき、私たちの体の中では成長ホルモンの分泌が活発になっている。このホルモンはアナボリックホルモンのひとつで、筋発達反応をもたらし疲労回復を促してくれる。つまり、できるだけ睡眠が深くなっている時間を長くすることが、筋発達の促進につながるということだ。
睡眠不足の状態が長く続けば、せっかく作り上げた筋肉が減少しはじめる。睡眠不足はてきめんにマイナスに働いてしまうわけだが、そうは言っても毎日必ず良質の睡眠を8時間以上もとるのは難しいという人もいるだろう。そういう人はまず、自分の1日のスケジュールを見直してみよう。忙しいときでも、何とかスケジュールを調整して、今までより30分早くベッドに入るようにする。ワークアウト前に摂取するタイプのものなどサプリメントの中にはカフェインが含まれている場合もあるので、そのようなものはできるだけ夜間には摂取しないこと。また、夜中のワークアウトが習慣になっている人は、場合によっては時間帯を変えることでより深い眠りが得られるかもしれない。というのも、高強度のワークアウトは神経を興奮させるため、人によっては寝付きが悪くなる可能性も考えられるからだ。
できるだけ睡眠を考慮して1日のスケジュールを組むようにし、トレーニングが最大限に筋発達に活かされるように良質の睡眠を十分にとるように心がけよう。
その5:食事メニューを組み直す
いい加減な食事のせいでプラトーに陥ってしまうこともある。プラトーの原因はトレーニングだけではないのだ。
筋発達に不可欠な栄養素はタンパク質であることは誰もが知っていることだが、身体を動かすための主要なエネルギー源になるのは炭水化物である。そのため、炭水化物の摂取量を制限したりするとプラトーに引きずり込まれることになる。
食事を構成する三大栄養素はタンパク質、炭水化物、そして脂質だ。筋発達を目指すアスリートは、この三大要素がしっかり確保できるような内容の食事を摂る必要があるわけで、それぞれの栄養素が筋発達にどのような役割を担っているのかをここで確認しておこう。
なお、それぞれの栄養素を日々どれくらい摂取すべきかについては、個人差があることなので一概には言えない。現状維持のために必要なカロリー量を計算したら、筋量増加のためにどれくらい摂取カロリーを増やせばいいのかを試し、さらにタンパク質、炭水化物、脂質の割合も変化させてみよう。微調整を加えながら自分の身体をモニターしていくうちに、自分にとっての理想的な割合が見えてくるはずだ。
●タンパク質:タンパク質は筋肉の構成要素だ。食事で摂ったタンパク質はアミノ酸に分解されて筋肉に取り込まれ、そこで筋肉に同化されて貯蔵される。必要に応じて筋肉は貯蔵しているタンパク質を分解し、アミノ酸を消費していく。
例えばワークアウトによって筋線維が傷つくと、その傷を修復する反応が起きるわけだが、その際にアミノ酸を消費する。そこで、このタイミングでプロテインシェイクなどを摂取してタンパク質(アミノ酸)を補給することは筋発達を促すうえで欠かせないのだ。そして、この傷の修復こそが筋発達反応になる。ここでの傷の修復は、ただ傷を治すだけでなく、筋肉が以前よりも太く、強くなろうとする。これは、再び同じような刺激や負荷が筋肉にかかったときに、ダメージを受けにくくするための反応でもある。
●炭水化物:炭水化物は体にとって主要なエネルギー源である。体の中に入るとブドウ糖にまで分解され、ブドウ糖はグリコーゲンの形で筋中に蓄えられる。疲労した筋肉を回復させ、傷ついた筋線維の修復にはグリコーゲンも不可欠である。筋発達を促すためにも、炭水化物は十分に摂取するように心がけよう。
●脂質:同じ1gでも、脂質はタンパク質や炭水化物に比べてカロリー量が多い。カロリー量が多いということは、エネルギー源としてはタンパク質や炭水化物よりも利用価値が高いと言える。 エネルギー源としてだけでなく、天然の良質な脂質は身体に余分な脂肪がつかないように作用することもある。そのため、全ての脂質を一緒くたにして避けないこと。良質の脂肪は身体づくりにプラスになるのだ。 ホルモンの生成にも脂質は不可欠だ。脂質を極端に減らした低脂肪食を続けると体内で作り出されるテストステロンを減らすことになる。アナボリックな反応を促すことは筋発達に欠かせない。必要なホルモンを減らしてしまわないように、良質の脂質を選択して賢く摂取しよう。