魚は考える時だけ脳を大きくできるようです。
6月18日にプレプリントサーバーである『bioRxiv』に掲載された論文、および7月8日に『AUTHOREA』に掲載された論文によると、魚は考える必要があるときに脳を大きくさせ、逆に使わない時には小さくできるとのこと。
人間の脳は簡単に容量を増減させることはできませんが、魚はわずか数か月という短い期間で脳の大きさを状況に応じて変更できるようです。
いったいどんな仕組みで、魚たちは脳の大きさを制御しているのでしょうか?
目次
養殖場から逃げ出したニジマスの脳は15%も重くなっていた
魚は季節によっても脳の大きさを自己調節できる
養殖場から逃げ出したニジマスの脳は15%も重くなっていた
動物が生存できるかは適応力と繁殖力にかかっています。
人間の場合、巨大な脳による高い適応力のお陰で、繁栄を極めています。
一方、虫の脳のサイズは極めて小さくなっていますが、高い繁殖力を生かして膨大な個体数を保持しています。
では、脳のサイズが虫以上、人間未満の魚においては、脳のサイズは生存能力にどのようにして貢献しているのでしょうか?
カナダのゲルフ大学の研究者たちは、謎を解き明かすために、魚の脳が環境の違いにどのように対処するかを調べることにしました。
最初の研究の対象となったのは、養殖場から逃げ出したニジマスです。
研究者たちは脱走から7カ月間、野生環境で過ごしたニジマスの脳と養殖場に留まっていたニジマスの脳を切り取って、重さを調べてみました。
結果、7カ月間の野生生活によって、元養殖ニジマスの脳は平均で15%も重量が増加していることが判明します。
また脳の部位ごとに大きさの違いを測定したところ、野生生活を送っていたニジマスは、特に「大脳(終脳)」の顕著なサイズアップがみられました。
安全な水槽で定期的にエサが与えられる養殖環境とは違って、野生環境では自分でエサを探し、危険を回避する必要があります。
研究者たちは、厳しい野生環境が魚の脳にフル回転を促し、脳の重量増加を促したと考えました。
どうやら魚にとって脳容積は絶対的なものではなく、必要なければ節約する対象なようです。
一方、別の研究チームは自然界にはありえない養殖場との比較ではなく、あくまで野生環境における魚の脳の大きさ変動を調査しました。
魚は季節によっても脳の大きさを自己調節できる
養殖場と野生環境での脳の大きさ比較は確かに興味深いものです。
しかし、人工的な環境との比較は魚本来の脳の調節機能100%反映するものではありません。
そこで同じくカナダのトロント大学の研究者たちは、野生環境に生息するレイクトラウト(イワナの一種)の、季節ごとの脳の大きさを調べてみることにしました。
結果、冬と秋に脳の相対的な大きさが増加し、夏と春には減少することが示されました。
脳の領域別の変化を調べたところ、やはり大脳のサイズが脳全体のサイズ変化に最も強く連動していました。
また脳の全体的な構造においては、脳表面のニューロンの細胞体が多く含まれる灰白質の増加が最も著しかったとのこと。
レイクトラウトは夏や春には湖の深い場所に潜む一方で、冬や秋になると岸辺に近い浅瀬で暮らすことが知られています。
研究者たちは、岸辺や浅瀬は湖底に比べて変化の多い複雑な環境であるため、脳の使用を促し、サイズアップにつながったと結論しました。
興味深いことに、魚の水平方向の移動速度を調べたところ、脳の大きさと移動速度の間に相関関係が確認されました。
なお同様の結果は、マンボウを対象にした別の研究でも示されています。
海岸線付近にすむマンボウの脳は遠洋にいるマンボウよりも平均して8.3%大きかったのです。
また最近の研究では「水場を探して陸地を2カ月間さまよう魚(マングローブ・キリフィッシュ)」は、陸上にいる2カ月間で脳を最大で46%も巨大化させることが示されました。
どうやら魚にとって未知の環境である陸地との接点は、魚の脳に激しいエクササイズを促すようです。
しかしそうなると、気になってくるのが脳をボリュームアップさせる仕組みです。