目に見えないものをどうやって研究するのか?

これは暗黒物質(ダークマター)をめぐる研究において、天文学者がもっとも悩んでいる問題です。

暗黒物質は光と相互作用せず、重力の影響だけを与える見えない物質であり、今のところその直接検出には誰も成功していません。

こうした研究では、観測的な事実と新しい暗黒物質モデルを比較して検証していきます。そこでは高度なコンピューターシミュレーションが重要なツールとなるのです。

ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのチームにより9月2日付けで科学雑誌『nature』に掲載された新たな研究では、暗黒物質モデルについて詳細なシミュレーションを実行し、驚くべき結果が得られたことを報告しています。

目次
冷たいダークマターモデルとWIMP
月にいるノミまで拡大できる宇宙シミュレーション

冷たいダークマターモデルとWIMP

もし「ダークマター」が見えたとしたら?最新のシミュレーションが未発見の暗黒物質を見つける鍵になるかも?
(画像=credit: depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

宇宙全物質の83%(全エネルギーでみた場合26%)を占めると考えられている暗黒物質は、他の物質と電磁気的な相互作用を一切持ちません。

これは暗黒物質からは、なんの電磁波も検出できないことを意味しています。

可視光も電磁波の1種なので、つまり暗黒物質は見ることすらかなわない、そこにあったとしてもまったくわからない謎の物質なのです。

しかし、それがどういう性質の物質であるのかという点については、観測された宇宙の状態からいくつか有力な予想が示されています。

1つは「冷たいダークマターモデル」と呼ばれるものです。ここでいう冷たいとは運動量のことで、暗黒物質はあまり動き回らず人ところに固まって存在するだろうという考え方です。

そしてもう1つの主要な予想は、暗黒物質がWIMPと呼ばれる陽子の約100倍の質量を持つ弱い相互作用しか持たない巨大粒子である、というものです。

予想ではWIMPは反物質のような性質を持っていて、互いに衝突すると対消滅を起こしガンマ線を発生させると考えれています。

今回のシミュレーションは、この2つのモデルが事実だった場合、暗黒物質がどのように存在しているかを非常に高い分解能で30桁もの質量を含む仮想宇宙を使い検証したのです。

月にいるノミまで拡大できる宇宙シミュレーション

すべての銀河の形成には暗黒物質の存在が不可欠だと考えられており、銀河の中には観測できる物質の10倍から100倍の暗黒物質が含まれていると推定されています。

冷たいダークマターモデルでは、暗黒物質はあまり動き回らず集まって塊を作っていると考えられています。これはハローと呼ばれます。

ハローとは物質がまばらに分布した雲のようなものを指します。

例えば銀河は星の集まる銀河腕の領域を超えて、星間物質(ガス)が広く分布した巨大なハローに包まれています。

ハローはサイズがさまざまであり、銀河や銀河団を包むほど巨大な場合もありますが、惑星を包むような小型のハローも予想されています。

今回のシミュレーションでは30桁という質量スケールで宇宙を再現し、さらにその宇宙で月の表面にいるノミまでズームアップして確認できるという、飛んでもない精度の分解能が実現されました。

これによって暗黒物質が見えた場合、どのようなハローを形成し、どのような内部構造を生み出すか詳細に観察することができたのです。