第一印象を予測するAIが開発されました。
米国プリンストン大学で行われた研究によれば、他人の顔に感じる第一印象をAIに学習させたところ、人間と同じような判断を下せるようになった、とのこと。
このAIを使えば、自分では判断不能な「自分の第一印象」を知ることが可能になります。
また知性や信頼感などの評価項目を操作することで、顔の輪郭を大きく変えずに、知性や信頼感を増すように加工した顔写真を生成することに成功しました。
ただこの技術について研究者たちは、政治家が自分の顔を「信頼感」が持てるように加工したり、「信頼感」を失わせるよう加工してライバル候補のネガキャンに使うなど、政治活動の思想操作に利用される可能性も警告しています。
AIによる印象操作は近い将来、多くの人々の生活を変えることになるかもしれません。
研究内容の詳細は2022年4月21日に『PNAS』にて公開されています。
目次
自分ではわからない「自分の第一印象」を教えてくれるAIが開発
単なる美人化アプリとは異なり「個性」を追加できる
自分ではわからない「自分の第一印象」を教えてくれるAIが開発
「第一印象が全て」と言う人は、社会において一定数存在します。
そうした人々は一般的に、脳の働きは顔に出るため、顔を見るだけでも、人となりや知性を判断できると考えているようです。
その判断が正しいかどうかは不明ですが、心理学において相手に与える印象全体の「55%」が視覚情報によって決定されることが知られています(メラビアンの法則)。
また日常的な経験からも、私たちの多くは第一印象によって相手の年齢・知性・信頼性・性的魅力を判断しています。
近年の社会心理学の研究では、これら第一印象が採用試験や法廷での刑事判決に至るまで、さまざまな分野において、無視できない要素として機能していることが報告されています。
ルックスがいい人は、能力が多少劣っていても企業に採用されやすく、暴力事件などの刑事事件ではより軽い判決が言い渡される傾向があるのです。
これらの事実は、第一印象が身近な人間関係に影響するだけでなく、会社の利益や刑罰の重さなど社会正義にまで影響していることを示しています。
しかし、人間の顔のどのような部位のどんな配置が、特定の第一印象の要素……たとえば「高い信頼感」や「強さ」に影響するかは不明でした。
本人が魅力的にみえると思って実行したオシャレが大失敗に終わるという悲劇も、自分の第一印象が他人にどのように見えるかが自分では判断できないことに起因します。
親兄弟や友達などに判断してもらうことである程度の「地雷撤去」は可能ですが、それらの人々は既に自分のことをある程度知っているため、まるで自分を知らない人が抱く「第一印象」の判断は不可能です。
そこで今回、プリンストン大学の研究者たちは、コンピューターによって自動生成されたリアルな1000人の顔写真の第一印象を、約4000人の参加者に評価してもらいました。
評価内容は約30項目に及ぶ「魅力」「信頼感」「親しみやすさ」「知性」「記憶への残りやすさ」「強さ」などの第一印象についてです。
そして得られた顔写真と第一印象の関係をAI(ニューラルネット)に提示し、どんな顔の人がどのような第一印象を与えるかを学習させました。
結果、AI(ニューラルネット)は顔写真と第一印象の関係を学習し、大多数の人間と一致する第一印象を回答できるようになりました。
たとえば、多くの人が「魅力が高い」「親しみやすい」と評価した顔写真に対して、AIもまた同じように「魅力が高い」「親しみやすい」と判断を下すことができるのです。
この学習済みのAI(ニューラルネット)を用いることで、自分の客観的な第一印象を知ることが可能になります。
また研究者たちはAI(ニューラルネット)による評価を参考にして、写真の撮り方や表情を工夫することで、第一印象の特定の項目を高めたり抑えたりすることが可能になると述べています。
そのため、開発されたAI(ニューラルネット)は、より魅力的な選挙ポスターを作成したいと望む政治家などにとって、垂涎の的となるでしょう。
ですが、この技術の真の価値は映像加工技術に与える影響にあります。
単なる美人化アプリとは異なり「個性」を追加できる
現在、映像加工技術の進歩によって、写真だけでなくリアルタイムのネット配信でも、自分の顔を「別人レベル」にまで加工して、より魅力的な配信者として装うことが可能になっています。
ただ既存の美人化アプリで作れるのは、平均化の概念にもとづいているものに過ぎません。
「美男美女」の作成プログラムのほとんどでは、被写体の顔の各部の数値を、基準とするいくつかの美顔パターンに向けてに中和補正することで……つまり個性を消すことで美しさを出力します。
これは、周りの人間の平均化された顔を美しいと感じてしまう人間の本能を利用したものになっています。
しかし今回開発された技術を使えば信頼感や知性、力強さといった「平均化」や「中和」とは異なる「偏った」特性を選んで被写体に付与することが可能になります。
たとえば上の図のように、特性をどれだけ付加するかといった加減も操作することが可能になります。
これら偏った特性の付与は単なる「美男美女」加工よりも、個性の演出能力に秀でています。
「平均化」や「中和」を基本とする「美男美女」加工の行きつく先は「似た顔の量産」であることを考えると、個性の付与能力を持ったAI(ニューラルネット)は、完全上位互換となる可能性を秘めています。
しかし優れたテクノロジーには往々にして危険性が伴うと研究者たちは述べています。
特に政治においては危険度が跳ね上がります。