アメーバは「見えないはずの迷路の行き止まり」も予知して回避する能力があると判明しました。
先行研究では、特定のアメーバは化学誘引物質に引き寄せられて移動することが知られています。
そのため、ゴール地点に誘引物質を置くことでアメーバに迷路を解かせる動機付けができるのです。
しかし8月28日に「Science」に掲載された論文で、迷路の分岐路において、両方の道が同じ濃度の誘引物質で満ちている場合でも、アメーバは行き止まりを予知したように回避して、正しい道を選べることが明らかになりました。
なぜ、いったいどうやって、アメーバは見えない行き止まりを回避して正しい道を進んでいたのでしょうか?
目次
謎の行き止まり回避能力
謎を解き明かす2つのヒント
謎の正体はアメーバの分解能力にあった
シミュレーションによる再現
体内の白血球も同じ仕組みで動いてる可能性が高い
謎の行き止まり回避能力
これまでの研究で、単細胞生物や体内の白血球は化学誘引物質に反応して集まってくることが知られています。
誘引物質は主に、栄養価の高いエサのシグナルや怪我をした場所への集合シグナルとなります。
しかしながら既存の研究は主に短距離の移動に焦点をあてたものが多く、長距離かつ複雑な迷路や血管系を突破する能力についてはわかっていませんでした。
上の動画では、スタート地点から出発したアメーバがゴール地点から連続的に放出される誘引物質につられて、迷路を攻略していく様子を映しています。
なお、左側は分岐の多い難しい迷路で、右側は簡単な迷路です。
興味深いことに、アメーバが左右の迷路を攻略する時間はほとんど同じでした。
人間ならば難しい迷路では攻略時間が伸びるはずなのに、どうやら行き止まり回避能力を持つアメーバにとっては、どちらも正解までの一本道に過ぎないようなのです。
謎を解き明かす2つのヒント
アメーバには行き止まり回避能力が確かにあるという事実はわかりました。
しかし依然として不思議なのは、分岐路における預言者のような行動です。
アメーバがゴール地点にある誘引物質の濃度の濃い方に引き寄せられているのは明白ですが、なぜ分岐路が同じ濃度の誘引物質で満たされていてもハズレを引かないのかがわかりません。
そこでイギリスの研究者たちはアメーバが迷路を攻略する様子をさらに詳細に観察すると共に、コンピュータモデルのシミュレーションを駆使し、謎解明に挑みました。
結果、2つの興味深い事実に気が付きます。
1つめは、迷路を攻略する能力は、なぜか先頭を進む個体が最も高かった点。
そしてもう1つは、先頭集団の通った「後」と行き止まりルートの「先」では誘引物質が枯渇しているという事実でした。
これだけでは全く意味不明の関連性のない現象に思えますが、長年謎解明に打ち込んでいた研究者にとっては全てを直感するには十分でした。
いったい研究者はこの2つの事実から、どんな結末を見出したのでしょうか?
着目すべきは、次の3点です。
1つ目と2つ目は、先に述べた通り「先頭集団の高い攻略力」と「誘引物質の枯渇現象」です。
そして最後の3つ目は、研究者自身が設定した「誘引物質はゴール地点から連続的に少しずつ放出されている」点です。