男女とも平均寿命が80歳を優に超える超・長寿社会の日本。放っておけば確実に減っていく筋力・筋量を長く維持、増加させていくには、やはり筋力トレーニングが必須です。では、安全に、長く継続できるメソッドとは?

長い人生を見すえた筋トレをあなたはできていますか?

いきなり怖い話から始めますが、私たち人間の筋量は放ったままにしておくと、30歳以降は1年間で約0.3%~0.5%ずつ低下していきます。その減少率は60歳を超えると加速度的に大きくなり、80歳になると青年期の50%以下にまで低下するといわれています。また、ただ寝ている「臥床」の状態では1日に0.6%の筋量が減少するため、怪我や病気による入院、あるいは加齢により寝たきり状態になると、3週間程度で約12%もの筋力が減少することになってしまいます。日本人の平均寿命は男性が81・41歳、女性が87・45歳(2019年調査)。私たちの過半数が80歳以上も生きることになるわけですが、ただ生きるのではなく「健康に生きる、最後まで自分の足で立ち、歩く」生き方をしたいものです。そのためにも、筋力トレーニングを長く継続して、筋力や筋量を維持、増加していく必要があります。

筋力トレーニングは筋力・筋量を増加させるだけでなく、骨密度の大きな増加や基礎代謝アップ、糖代謝や脂質代謝の改善効果、さらに糖負荷におけるインスリン反応の低下やインスリン抵抗性の改善などについても有用といわれています。筋トレをやらない手はない。いえ、長い人生を見すえれば、ぜひライフワークにすべきといえるでしょう。

筋力や筋量アップのためには、一般的に最大挙上重量の(1RM)の70 %を超える高い強度を用いて疲労困ぱい(3セット、週2~3回)まで実施することが必要とされています。ただ、このような高強度負荷はトレーニング経験者であっても継続のハードルは高く、まして高齢者がこうしたトレーニングを実施した場合は動脈硬化の指標である動脈スティフネスを増加させるとの報告もあります。高齢社会を迎えた今はとくに、年齢やトレーニング経験の区別なく、誰もが強い負荷をかけずに筋サイズや筋機能を改善できるトレーニング方法の開発が急務といわれています。そうした声に後押しされる形で、いま注目を集めているのが加圧トレーニングです。

加圧トレーニングとは、腕や脚の基部(付け根)の部分を専用のベルトで加圧除圧し、適切に血流制限をした状態で行う筋力トレーニングです。血流制限状態で筋収縮を促す運動動作を加えると、エネルギー消費による化学反応の副産物として大量の乳酸が発生し、血液中へと流れていきます。血液の流れを物理的に制限した部位の血管内には、高濃度の乳酸が滞留することになり、アドレナリンや成長ホルモンの大量分泌を促す。これが、加圧トレーニングによる筋力・筋量アップのメカニズムです。

トップアスリートから高齢者まで研究報告が証明する加圧の効果

加圧トレーニングは低負荷運動であるにも関わらず、短時間の筋力トレーニングでも筋力増加と筋肥大を引き起こすことができるのが最大の特徴です。高強度筋力トレーニングはトレーニング中の顕著な血圧上昇を促すため、実施の際には十分な注意が必要です。一方、加圧トレーニングの場合は日常活動レベルの低負荷強度(20~40%1RM)でも十分な筋力増加や筋肥大を引き起こし、高強度筋力トレーニングに比べてトレーニング中の血圧上昇も極めて低く抑えられます。

「安全」という面では申し分のない加圧トレーニングですが、実際の効果については? これに関してはさまざまな研究結果が報告されています。たとえば、成人トップアスリートを対象とした研究では、膝伸筋群に対する加圧トレーニング(20~30%1RM×5セット×週2回を2ヵ月)を実施したところ、10%の筋肥大と15%の筋力増加が観察されています。また、平均年齢60歳の健常女性を対象に、上腕屈筋群に対する加圧トレーニング(30~50%1RM×3セット×週2回を4ヵ月)を実施したところ、上腕二頭筋の筋断面積が20・3%、筋力も17・8%の増加を示しました。この数値は、高強度筋力トレーニング(80%1RM)と同程度の効果が得られたことを意味しています。

海外の報告の中には、膝伸展運動を対象に高強度筋力トレーニング(80%1RM×3~4セット、セット間の休息60~ 120秒)と加圧トレーニング(20~50%1RM×3~4セット、セット間の休息30~60秒)による筋肥大効果を比較したものもあります。その結果は、高強度筋力トレーニングでは0・03~0・26%/日(1~7%/月)、加圧トレーニングでは0・04%~0・22%/日(1.2%~6%/月)の筋肥大率を示し、大腿四頭筋の肥大率はトレーニング間で同程度であることが報告されています。