箱形のデスクトップパソコンとブラウン管のディスプレイからノートパソコンやタブレット機器が生まれたように、科学の進歩は電子機器を「軽く、薄く、便利に」してきました。
そして最近、その方向を極めた新たなデバイスが誕生しました。
アメリカ、パデュー大学生産工学部エンジニアのラムセス・マルチネス氏ら研究チームが8月23日『Nano Energy』誌に、紙1枚で作られたワイヤレスキーボードを発表したのです。
この新しいデバイスは、文字通り紙1枚分の重さと薄さしかなくバッテリーさえ必要としません。
目次
撥水コーティングと回路層の印刷によって紙キーボードを作る
ワイヤレス紙キーボードはバッテリー不用で折り畳める
撥水コーティングと回路層の印刷によって紙キーボードを作る
研究チームが作成したのは、映像にあるような紙に印刷されたキーボードです。
通常のキーボードと同じように印字された数字や文字を押すことで、対応した情報をコンピュータに送信・表示することができます。
この紙キーボードは「フッ素化された分子による紙のコーティング」と「回路層の印刷」によって作成されました。
最初にキーボードの数字や文字が印刷された通常の紙を用意し、ここに研究チームが新しく開発した特殊なコーティング加工を施します。
マルチネス氏によると「紙を高度にフッ素化された分子でコーティングすることで、水や油、ほこりに対する撥水性を持たせる方法を開発した」とのこと。
これだけでは単なる印字済みの耐水ペーパーなのですが、実はこのコーティングが紙キーボードを作成するのに必要な回路層の印刷を可能にしたのです。
次の段階として、紙全体にキーボードとして機能させるための回路を印刷して組み込みます。
この点に関してマルチネス氏は、「コーティングにより、インクをある層から次の層に染み込ませることなく、紙に何層もの回路を印刷できた」と述べています。
ワイヤレス紙キーボードはバッテリー不用で折り畳める
作成された紙キーボードはワイヤレスであり、バッテリーが必要ありません。
なぜなら印刷された回路層は「摩擦帯電効果(摩擦によって電気が発生する仕組み)」を持っており、キーを押した時に生じる静電気で必要なエネルギーすべてを賄えるのです。
研究チームによると、この摩擦帯電エネルギーを使用することでBluetoothによるワイヤレス通信も成立させているとのこと。
さらに紙キーボードは全体が撥水加工されているため耐水性があります。水に濡れても表面の水滴を拭き取るだけで使用し続けられるでしょう。
また柔軟性もあり、折り畳んでも問題ありません。ポケットに折り畳んで入れておけるコンパクトなデバイスとしても利用できるのです。