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ロシアのウクライナ侵攻や中国のロックダウンが問題視された割りに、「不足」との言葉は今回52回と、前回の60回を下回った。米3月ISM製造業景況指数は仕入れ価格が再び急伸したとはいえ、入荷遅延は50超えで入荷の遅れを示すが65.4に低下し、受注残も60.0と前月を下回った。供給制約問題は、2021年秋で一旦ピークアウトした感がある。
チャート:「不足」の登場回数は、今回52回

チャート:ISM製造業景況指数、入荷遅延は60超えを維持し受注残は低下

ウクライナ問題に関し、12地区連銀のうちセントルイスを除く11行が言及した。大別すると物価上昇(原材料、エネルギー、窒素、コーンや小麦など農作物)、一段の供給制約、将来の見通し不確実性、需要の減退などへの懸念が挙げられた。ただ需要の減退は現時点で懸念にとどまり、フィラデルフィアやクリーブランド、カンザスシティなど実際の需要低下を報告せず。フィラデルフィア地区連銀のみ、銀行家や会計士、弁護士からの報告として、中小企業主がロシアによるウクライナ侵攻を含めインフレ加速などの問題を受け、メンタルヘルスに支障が出ているとの声が聞かれた。
その他、中国のロックダウンに関し、供給制約の問題点を指摘した地区連銀は6行だった。
・NY地区連銀 1回
→一部の製造業者は、ウクライナ戦争やロシア経済制裁、中国のロックダウン、深刻なトラック運転手不足などが供給チャネルを阻害したと報告した。
・フィラデルフィア地区連銀 1回
→非製造業者は供給網の問題が緩和されつつあると指摘したものの、一部の製造業者はロシアのウクライナ侵攻と中国の生産停止により、特定のコモディティでさらなる混乱が発生したと報告した。
・クリーブランド地区連銀 1回
→製造業の需要は、広範囲に及ぶ市場で力強く高まったが、国内と海外の要因で供給制約が掛かり、中国での都市封鎖やウクライナ戦争はさらなる困難をもたらした。
・アトランタ地区連銀 1回
→空輸業者は配送料の増加を指摘したが、中国での新たなロックダウンにより中国への貨物輸出入の能力が低下した。
・シカゴ地区連銀 1回
→製造業者は引き続き広範に及ぶ原材料不足を指摘、中国のコロナ感染拡大が一段の供給制約をもたらすとの懸念を表明した。
・サンフランシスコ地区連銀 1回
→生産活動は、人手不足と中国のコロナ感染拡大に伴う供給制約により、影響を受けた。
――今回のベージュブックでは、賃金の伸び鈍化を挙げる地区連銀が確認されました。地区連銀は「賃金の伸び」を12回指摘、そのうちボストン地区連銀とフィラデルフィア地区連銀が鈍化を報告、アトランタ地区連銀は賃金上昇の伸びが一部の業種に限定されるようになったと指摘。一方で、セントルイス地区連銀とダラス地区連銀は、人手不足などを理由に引き続き賃金上昇が記録的だと報告していました。
・ボストン地区連銀 2回(賃金の伸び鈍化:1回)
→複数の企業は賃金上昇圧力は根強く残ると予想したが、その他は鈍化の可能性を見込んだ。
→ソフトウェアやIT関連の全ての企業は少なくとも一部の業務で賃金を引き上げ、上昇率は2社で加速した。
・フィラデルフィア地区連銀 3回(賃金の伸び鈍化:2回)
→賃金の伸びは大半の企業にとって困難をもたらしたが、ペースは幾分鈍化したようだ。
→しかしながら、人材派遣会社を含む多くの企業は賃金上昇ペースの鈍化を報告した。
→賃金上昇により、地元のコーヒーショップは労働者が近所のコーヒーチェーン大手に移ったため閉店を余儀なくされた。
・アトランタ地区連銀 1回(賃金の伸び鈍化;1回)
→賃金上昇ペースはまちまちで、一部の企業は今年全般的に賃金を引き上げる見通しだが、その他は一部の業種に限定する方針だ。
・セントルイス地区連銀 3回
→雇用は緩やかに増加し、賃金の伸びは力強さを維持した。
→3月に賃金は勢いよく伸び、広範囲に及んだ。
→賃金上昇率の予想は変わらず、過去数年のペースを上回った。
・ダラス地区連銀 2回
→雇用は活発に伸び、賃金上昇率は引き続き労働市場のひっ迫を受け高止まりした。
→賃金上昇率は人手不足を受け、引き続き過去最高水準にあった。
――以上、4月ベージュブックはロシアのウクライナ侵攻、中国のロックダウン再開、インフレ加速、供給制約などを受けながら、米経済の耐性を示しました。見通しに影が差しつつある点は気掛かりとはいえ、労働市場のひっ迫を背景に50bpの利上げを可能とさせる内容です。市場では75bp利上げ観測が浮上し金融市場は大揺れとなりましたが、問題はインフレ圧力。平均時給は3月、前月比で鈍化したように、足元で労働参加率の改善を一因に、数地区連銀で賃上げペースの鈍化が確認されました。米4月雇用統計で、賃金上昇ペースが落ち着きを示すのか、今後の利上げスタンスを決定づける要因となることは間違いありません。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年4月26日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。
文・安田 佐和子/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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