2020年9月のデビューから約1年半、オンワード樫山(東京都/保元道宣社長)が展開するD2Cブランド「ハッシュニュアンス(#Newans)」が好調だ。社内にパタンナーもデザイナーも置かず、企画段階から消費者を招いて「座談会」を開催し、消費者の声を商品へと具現化していくスタイルをとる。SNS時代の女性のクチコミ効果に着目し、見事、消費者参加型の商品企画を成功させる「ハッシュニュアンス(#Newans)」の強さはどこにあるのか。プロジェクトリーダーの田野井哉恵氏に聞いた。

メーンアイテムは白シャツ、SNSのクチコミでファンを獲得

売上拡大中!オンワードの“白シャツに特化”したブランドが「D2C」にこだわる納得の理由
(画像=2021年6月の展示会で発表されたビッグリボンシャツ、『DCSオンライン』より引用)

在宅勤務、二拠点生活、ワーケーションなど、コロナ禍でさまざまな働き方をする人が増えている。そうした多様な働き方をする女性たちに寄り添う服というコンセプトを打ち出し、多くのファン心を掴んでいるのが「ハッシュニュアンス(#Newans)」だ。Instagramを中心としたクチコミによって、幅広い年代の女性に支持されている。 

ブランドのメーンアイテムは、白シャツ。「きちんと感がありながらも、リラックスできる。そして、誰でも持っているものは何か? とさまざまな議論を重ねて、たどり着いたのが白シャツだった」と語るのはプロジェクトリーダーの田野井哉恵氏。

チーム編成は、田野井氏を筆頭に、20代のメンバーを中心に5名のみ。D2Cブランドとして実店舗は一切持たない。公式ファッション通販サイト「ONWARD CROSSET(オンワード・クローゼット)のみで販売し、SNSを使った「共創マーケティング」を掲げたブランド運営を行う。

「お客さまと共に創る、という意味での『共創マーケティング』。どんな形がいいのか、どんな色がいいのか、企画段階から座談会やSNSでのアンケート調査を行うなど、『自分ごと化』してもらうことが狙い。販売前から参加してもらい、販売までの間にどんどん期待値が高まっていくことで、SNSで発信したいという方も増える。女性ならではのクチコミ効果は絶大」(同)。

消費者に対して実施したアンケート結果は商品企画に生かせるだけでなく、同時に商品PRまでできてしまうという。「さらに、アンケートからは人気商品も見えてくるので、販売予測もしやすい。数値設計もスムーズになる」(同)。

Instagramを最大限活用し、D2Cならではの消費者とのダイレクトな関係性を作り上げることに成功。フォロワー数は2.5万人に達し、売上は前年の1.8倍と順調に推移している。

参加型の商品企画で消費者との距離を縮め、リアルな声を反映

売上拡大中!オンワードの“白シャツに特化”したブランドが「D2C」にこだわる納得の理由
(画像=リモート座談会の様子、『DCSオンライン』より引用)

アイテム構成はシャツを中心にコーディネート用のニットなどもあるが、売上はシャツが7割ほどを占めており、中でも品揃えが最も多い白シャツが一番の売筋だ。白シャツの価格は9,000円(税抜)~で、中心価格帯は12,000円。売上オンワードの技術、品質はそのままに手頃な価格で手に入るとはいえ、ファッションの定番ともいえる白シャツで、人気を集める理由は何なのか。

「着映え感、トレンド感にプラスして、機能が多彩な点だと考えている。洗濯機で洗えてアイロンいらず。また、袖まくりがしやすい工夫がされていたり、長めのシャツならポケットがあるなど、ただのシャツではない。かゆいところに手が届く」(田野井氏)。

「お客さまが本当にほしいものをつくろう」というのも、ハッシュニュアンス立ち上げからのコンセプトだ。SNSでのアンケート調査のみならず、企画段階から定期的に「座談会」を開催し、そこで得た顧客からの声が商品開発の核となっている。「企画前から販売までの各プロセスで、リアルとオンラインで4回の座談会を実施し、その間にSNSでのアンケート調査を実施する。1つのアイテムが完成するまでに、お客さまと接点をもつ機会が合計8回程度あることになる」(同)。

結果、3児のママさんから女性起業家、地方移住した人まで、さまざまなライフスタイルの消費者の生の声を集めることが可能になっている。

田野井氏自身、ハッシュニュアンスに携わる以前は、長く店舗販売でのブランドに関わってきた。「実店舗では接客があるので一見お客さまとの距離が近そうに思えるが、一番欲しい顧客情報を掴んでいるのは実は百貨店などの商業施設。ましてや、企画をする立場となれば、お客さまと実際に関わる場面はほとんどない。その点、ハッシュニュアンスは、お客さまの声をリアルに拾うことができるのが本当に大きな強み」(同)。

購入履歴や属性、他社のどういうブランドをフォローしているかなど、リアルタイムで情報を収集できるのがD2Cのメリット。スピード感をもって即、企画や販促に生かせる。

さらに、ターゲットやマーケットが広いことも特徴。「百貨店などの商業施設に出店する場合、ビル自体の立地や周辺ブランドでお客さまのセグメントがされてしまう。一方、D2Cとなるとターゲットは限定されないと考えている。現状、ハッシュニュアンスの中心購買層は30代半ばだが、全体では20代から60代と幅広い年代に購入いただいている」(同)。