超軽量負荷で短時間、短期間に成長ホルモンを獲得できる加圧トレーニング。実は血管を鍛える「血管トレーニング」の側面もあることをご存じでしょうか?

血管が「強く」なければ良質なトレーニングはできない?

体を大きくするための最善策は筋肉を大きくしていくこと。多くのトレーニーはこの信念のもと日々高重量に挑戦し、前回より少しでも多くの重量を持ち上げる作業を繰り返してきています。前回は肉体作りの根幹をなす「骨」について考察しましたが、今回は筋肉を大きくする際に大きく関連する「血管」にフォーカスを当ててみたいと思います。

高重量でのトレーニングを行う際、1レップを上げるために血圧は急上昇と急降下を交互に繰り返しています。このことを血管の目線で考えると、高負荷でのトレーニングにおいて血管は「急激に拡張され、また元に戻る」という動きを繰り返していることになります。仮に血管がそのストレスに耐えられなければ、高負荷でのトレーニングができない状況になる。つまり、良質のトレーニングを行うには、それに耐えうる〝強い〟血管が必要だということになります。では、血管を強くするにはどうするか? おすすめしたいのが加圧トレーニングです。

血管の柔軟性や新たな生成にベストのトレーニングがある

少しおさらいしておくと、加圧トレーニングとは、腕や脚の基部(付け根)の部分を専用ベルトで加圧し、血流制限をした状態で行う筋力トレーニングのこと。その最大の特徴は「超軽量負荷、短時間、短期間」で成長ホルモンを獲得できることです。

この加圧トレーニングは血管に大きく働きかけることでも知られています。加圧・除圧を繰り返して行うことで、血管の拡張=加圧、収縮=除圧を促し、血管の柔軟性を促進させることができると考えられているのです。

さて、血管壁の構造は大きく外膜、中膜、内膜の三層構造からなっています。加圧トレーニングでは、血流を制限することにより血管内の内圧が高まり、血流がプーリングされることで乳酸が発生します。そのため、脳が「強度の高いトレーニングを実施している」と錯覚を起こし、成長ホルモン(GH)やインスリン様成長因子‐1(IGF―1)が分泌されます。このGHやIGF―1の産生が高い度合いで進むことにより、直接的な内皮からの一酸化窒素の放出を増加させます。一酸化窒素は血管壁の中膜にある平滑筋に作用し、平滑筋の緊張がゆるんで血管が広がります。

筋肉だけではなく、「血管」を鍛えるトレーニング
(画像=『FITNESS LOVE』より 引用)

血管を広げる働きは、放出される一酸化窒素の量に左右されることになりますから、一酸化窒素が不足すると血管は硬くなり、逆に十分に出ていると血管はやわらかい状態で保たれます。加齢により血管が硬くなることは、皆さんご存じだと思います。血管が硬くなるとどうなるか? まず血液を送る力が弱くなっていきます。特に、血管内の最内層になる「血管内皮細胞」は、血管の健康状態を維持するのに非常に重要な役割を果たしています。血管内皮細胞は一酸化窒素を生成し、血管の柔軟性に関わる血管壁の収縮と弛緩や炎症細胞などの調整を行っています。加圧トレーニングは、この血管内皮細胞にも働きかけることが分かっています。加圧トレーニングによりこの細胞が増加し、血管の柔軟性が向上する、つまり血管の若返りに寄与すると言われているのです。この血管内皮細胞は「血管新生」に大きく関わっていることも知られています。血管新生とは新しい血管が形成される現象のことですが、加圧トレーニングを実施することで多くの血管新生が起こり、新たな血流の流れができることでその周りの筋線維や神経が活性化されます。

新たに活動を始めた筋線維には、血管の拡張で分泌した成長因子により、筋サテライト細胞も新たに増殖するようになり、筋線維との融合が行われた結果、筋線維がより太く、強くなる、イコール筋肥大につながっていくのです。ちなみにこの筋サテライト細胞は、一度作られると筋線維内に長期に渡って留まることが知られています。久しぶりにトレーニングを再開したとき、案外違和感なく実施できるといった現象には「マッスルメモリー」が関わっているとされていますが、このマッスルメモリーも筋サテライト細胞によることころが大きいと言われています。