「意識」を奪う麻酔薬は量子効果にも影響を与えていた
意識が量子効果によって形成されるかどうかを確かめる手段として、古くから麻酔薬を使用するアイディアが提唱されていました。
いくつかの麻酔薬は種類ごとに異なる分子構造を持ち作用機序が異なるものの、使用すると同じように「意識」を奪う結果をもたらします。
そのため量子意識仮説を信じる科学者たちは「意識」が量子効果によって生じるならば、異なる種類の麻酔薬でも脳細胞に対しては共通の量子効果が起こる可能性があると考えていました。
そこで研究者たちは、微小管を麻酔薬にさらして観察された量子効果である「遅延発光」に影響が出るかを調べました。
結果、麻酔薬の使用は遅延発光に必要な時間を約5分の1に短縮していることが判明します。
一方、神経に対して同じ抑制効果はあるものの「意識」を奪わない抗けいれん薬を加えた場合には、遅延発光に影響はありませんでした。
同様の結果はプリストン大学で行われた研究でも導き出されました。
プリストン大学の研究者たちも微小管に対して光(レーザー)をあてる実験を行っていました。
研究者たちが微小管の特定の場所に光(レーザー)をあてると、電子の励起状態が予想よりもはるかに広範囲で微小管を介して拡散していく様子が観察されました。
また麻酔薬を微小管に加えた場合、この異常な微小管のふるまいが抑制されることが発見されました。
これらの結果は、麻酔薬が微小管と何らかの相互作用をして「意識」の形成に必要な量子効果を妨げている可能性を示します。
微小管が細胞内部の量子効果の足場となっている可能性がある
今回の研究により、細胞に存在する微小管に「意識」の発生するタイムスケールと同じ量子効果が発生することが判明しました。
また「意識」を奪う麻酔薬には、微小管に生じた量子効果と考える現象に大きく影響を与え、変更または抑制することが示されました。
2つの研究において研究者たちはともに、微小管に起こる量子効果が脳細胞における「意識」の形成に重要となる可能性があると結論しています。
ただこれらの実験で「意識」が全て量子効果の産物であり、量子意識仮説の全てが肯定されるわけではありません。
(※量子意識仮説の一種である「Orch OR」説では意識が微小管上に存在する量子ビットによって形成されていると主張しています)
実験によって観測された結果は量子効果の可能性が高いとされたものの、理論的には古典物理の範囲でも起こりえる現象だからです。
研究者たちも最終的な結論に至るには、何らかの方法で生きているヒトの脳において、量子効果が起きているかを確かめる必要があると述べています。
なお今回の研究が「意識」とは関係が無かったとしても、微小管は単に細胞内で物理的な力を担うだけでなく、細胞内で起こる量子効果の足場として機能している可能性は残るため、生物学的に重要な発見であることに間違いはないでしょう。
量子意識がブラックホールの存在のように「常識」となるか「荒唐無稽」で終わるかを判断するためにも、続く研究に着目したいところです。
参考文献
Do quantum effects play a role in consciousness?
元論文
The Science of Consciousness Conference
提供元・ナゾロジー
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