意識は量子効果で形成されているのかもしれません。

カナダのアルバータ大学(University of Alberta)とアメリカのプリストン大学(Princeton University)で行われた研究によれば、ヒトの意識は量子的な効果で発生しているという量子意識仮説を支持する発見あった、とのこと。

量子意識仮説はブラックホールの存在を示した業績で2020年にノーベル物理学賞を受賞したロジャーペンローズ博士らによって提唱されており、脳科学と量子論を融合した野心的な理論となっています。

かつてはブラックホールの存在と同じく「荒唐無稽」であるとみなされていましたが、新たな研究では量子意識仮説を裏付けるような実験的な結果が得られました。

ヒトの意識は本当に量子効果で形成されているのでしょうか?

研究内容の詳細は2022年4月18日に開催された『Science of Conciousness』会議で報告されました。

目次

生命活動に量子効果がかかわることが次々に判明している

「意識」が量子効果で生じることを示す実験結果が発表される
(画像=植物の光合成には量子効果が働いていることが知られている / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

現在の脳科学では、ヒトの意識は脳細胞ネットワークを流れる電気信号パターンによって形成されると考えられています。

この考えでは、意識がどこからかやってきてネットワークに宿るのではなく、ネットワーク構造と電気活動が一定のパターンをとったときに「意識」が現れるとしています。

最新の研究でも、脳において特定部位の活動を遮断すると、意識が途切れることが示されました。

一方、近年になって生命活動のさまざまな領域において量子的な効果が利用されていることが明らかになり、量子力学と生物学を融合させた「量子生物学」という新たな分野が成長しつつあります。

特に光合成に対する量子生物学の貢献はめざましく、光エネルギーから栄養(化合物)が作られる過程では、電子が量子的なふるまいによって突然位置を変え、従来の古典物理学では説明困難な化学反応を実現している様子が示されています。

(※古典物理学ではエネルギー的に困難であると考えられる電子の移動でも、電子の存在確率のあやふやさ(量子効果)を利用して実現しています)

他にも渡り鳥のナビゲーション機能、動物の嗅覚、さらにDNAやタンパク質がかかわる酵素反応など幅広い生命現象に、量子効果が関連していることが報告されています。

ブラックホールの存在を説明するにも使われる量子力学が、私たち生命の駆動原理として存在すると考えるのは、一見して奇妙に思います。

しかし量子生物学では、全ての物理現象が量子力学であるのと同じように、物理現象の一形態である生命活動も量子力学がかかわっていると考えられています。

そして先進的な脳科学者たちは、光合成が量子効果で進むのと同じように、「意識」もまた量子効果によって説明できる部分があると考えていました。

しかし「意識」が量子効果によって形成される部分があるとしても、実際に細胞内で「意識」の形成にかかわるような量子効果が起きていることを証明できなければ、科学として成り立ちません。

そこで今回、アルバータ大学の研究者たちは実際に細胞内部の部品に対して光エネルギーを与え、量子効果が出現するかを確かめることにしました。

微小管で量子効果が観測された

「意識」が量子効果で生じることを示す実験結果が発表される
(画像=微小管は細胞の各地に張り巡らされているほか、細胞分裂時には染色体を引っ張る役割もする / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

私たちの細胞内でも量子効果が起こりえるのか?

答えを探るために研究者たちは、微小管と呼ばれる極めて細いチューブ状の構造に青い光をあてて量子効果が現れるかを観察することにしました。

微小管は「細胞の骨格」として細胞の運動や構造維持を受け待つほか、細胞内に敷設された「レール」や「けん引ロープ」として物質輸送に関与し、細胞の各地に回路のように張り巡らされています。

高校で生物学を学んだ人のなかには、細胞分裂時に染色体が微小管によって左右に引っ張られている図を記憶している人もいるでしょう。

この微小管は、実は、量子効果が発生する場所として優れた構造をしてることが知られており、量子意識仮説の証明に最も適していると考えられていました。

(※微小管の構成単位であるタンパク質には比較的自由な電子が存在する場所や電気的な影響を受けにくい領域がナノメートルの幅で設置されており、この特性と距離は電子に量子効果を起こすのに十分と考えられています)

そのため研究者たちはこの微小管に対して、青色の光を当てて量子効果が起こるかを確かめることにしました。

結果、照射された光が微小管にとらえられ、その半分が数百ミリ秒から1秒以上が経過した段階で放出される「遅延発光」が観察されることを発見しました。

遅延発光は量子効果の結果として生じることが知られています。

また数百ミリから1秒という範囲は、意識が発生するタイムスケールと一致します。

これまで微小管で量子効果が起きたとしても非常に短時間に終わるため、意識が芽生えるほどのタイムスケールには達しないと考えられていましたが、実験では微小管で起こる量子効果が意識形成につながる可能性が示されました。

しかしより興味深い結果は「意識」を奪う麻酔薬を使ったときに現れました。