自家需要にこだわるワケ

青山フラワーマッケットの母体であるパーク・コーポレーションは1988年に創業され、翌年から生花事業に着手した。日本に花のあるライフスタイルを提案したいと 、店舗数を全国で118店舗(2022年3月現在)まで拡大している。
青山フラワーマーケットは、新たなマーケットを切り開いた“開拓者”でもある。例えば、遠藤氏が入社した2001年当時、日本の花き市場の需要の中心は、冠婚葬祭や贈答用の花といった法人向けだった。しかし青山フラワーマーケットは花や緑に囲まれた心ゆたかなライフスタイルを提供するべく、起業当初から自家需要をターゲットにしていた。
そのため、店内には胡蝶蘭など法人需要の花は置いていない。季節の花々を店内にぎゅっと凝縮させたような、ささやかでも自分や大切な人が心を豊かにする旬な花を提案している。そうした個人を対象にした花屋は、持ち帰りの利便性や家賃に考慮し、住宅街に出店するのが業界のセオリーだが、青山フラワーマーケットは人通りの多い駅構内や百貨店の入り口などに出店している。洗練された店構えと、豊かな季節の花々。マスメディアの広告は打たずとも、知名度は高い。メイン顧客は30~50代だが、コロナをきっかけに若い世代も花を求めに店に訪れるようになっているという。
右脳と左脳を刺激する人材育成
企業の成長に欠かせないのは人材だ。花屋の仕事は、朝が早く力仕事も多いハードワークというイメージがあるが、「青山フラワーマーケットなら働いてみたい」と憧れる若者は少なくない。遠藤氏も、その一人だったという。
「幼い頃から花に囲まれて育った。成長とともに家具職人を目指すようになったが、17歳の時にインテリア雑誌で見た青山フラワーマーケットの花の“ヴィジュアル”に心奪われ、20歳でアルバイトとして働き始めた」(同)
ちなみに、同社の社員は、新卒以外では25~30歳未満が最も多く、男性社員は10~15%だという。
しかし、店舗が急速に拡大し従業員が増えていく中で、創業者の概念を店舗スタッフ一人に共有するのは容易ではないだろう。遠藤氏は、「技術はいくらでも教えられるが、大切なのは従業員一人ひとりがモチベーションを高くもち自主性を持つこと。弊社のスピリットを丁寧に伝えるようにしている」と話す。
また、同社のマネジメント法の一つに、「右脳と左脳を分ける」という考え方がある。店長の代わりに「ショップクリエイター(右脳派)」と「ショップマネージャー(左脳派)」を置き、前者は店づくりや店舗のあらゆるクリエイティブな表現を担い、後者はお金の管理や採用、店舗の運営を担っている。人には得手不得手があるのが当然で、得意を生かしながら、店を運営するという手法だ。
どの花を発注するか、現場に権限を持たせているのも同社の人材育成の鍵だろう。 「通常、個人を対象にする街の花屋さんの仕入れは社長など経営のトップが行う。あるいは多店舗展開をする生花販売業の多くは、本社が発注業務を一括管理するケースが多いが、弊社は現場に権限移譲することで、従業員のスキルアップとモチベーションの向上を目指している」(同)
また、キャリアパスは技術や表現力、経験値に応じて「LEAF(リーフ)」と呼ばれるレベル分けをしている。従業員の技術を問わず、アルバイト1日目から成長を実感できる仕組みもある。「今日はこれができるようになった、というように、作業内容を細かく要件分けしている。ブランドマネージャーとして、数年前に、思いつくままに要件を並べたら2500要件もリストアップしてしまった。そこからスリム化するのは大変ではあったが、それほど細かく技術向上できるということであり、レベルを問わず一日一日成長できていると、従業員が体現できる仕組みは他社にはない独自の教育プログラムであると自負している」(同)