目次
ゴミから発見された新素材・カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブの成長に必要な触媒
point
- 実用化が困難だったカーボンナノチューブを成長させる新しい方法が見つかった
- 古新聞紙を触媒にすることで、低コストかつ環境にやさしい方法が実現
- 中国の磁器の原料「カロシン」を使った新聞紙が最適
黒炭、ダイヤモンド、グラファイト(黒鉛)、フラーレン……。これ全部、炭素原子(C)から構成される分子(同素体)です。炭水化物や糖にも含まれるなど、われわれ人間にとっても不可欠な炭素。これがなければ地球に生命が誕生しなかったといっても過言ではありません。
炭素分子の仲間のなかでも近年注目を浴びているのが、カーボンナノチューブ。タッチパネル用のフィルムや曲がる素材や繊維、5G用のアンテナなど多様なエレクトロニクスデバイスへの応用が期待されています。
カーボンナノチューブを実用化するには、編み物のように炭素原子を紡ぎ、長い繊維にする必要があります。ところがネックだったのがそのコスト。アメリカのライス大学とイギリスのスウォンジー大学の共同研究チームは、古新聞紙を使ってカーボンナノチューブの合成に成功したと発表しました。論文はオンラインジャーナルのC-Journal of Carbon Researchに10月29日付で掲載されています。
From Newspaper Substrate to Nanotubes—Analysis of Carbonized Soot Grown on Kaolin Sized Newsprint
ゴミから発見された新素材・カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブは、蜂の巣状になった六角形が網目状に並んだ炭素膜(グラフェンシート)を丸めた構造になっています。直径わずか1nmから数十nm、長さは数μmから数mmの小さな円筒です。※1nm=100万分の1mm、1μm=1,000分の1mm
鋼鉄よりも数十倍の強度をもちながら、非常に軽く、いくら曲げても折れない、さらには薬品や高温にも強く、電気や熱を通しやすいといったまさに万能素材なのです。
実はこのカーボンナノチューブ、日本の飯島澄男博士が1991年に偶然発見した分子。
別の炭素の同素体(フラーレン)を合成する際に、装置内に残っていたゴミに目を向けたのが、飯島博士でした。炭素膜の丸め方によって物性を変えられるので、半導体や金属にもなることが明らかになったのです。
長繊維化可能なカーボンナノチューブの応用として期待されているのが、宇宙エレベーターです。高度約36,000kmの静止軌道にある人工衛星まで伸びるロープは、軽くて強く、しなやかな材料が求められます。カーボンナノチューブはこれらすべてを満たす唯一の材料なのです。
カーボンナノチューブの成長に必要な触媒
カーボンナノチューブを実用化可能なサイズにするためには、小さく細い分子を紡いで「成長」させる必要があります。当初は粉末化したカーボンナノチューブしか利用されませんでしたが、成長させることで本来もっていた優れた特性を活かすことが可能になります。
カーボンナノチューブの成長には、触媒となる物質が不可欠。触媒のもとに炭素原子が集まり、円筒状のカーボンナノチューブへと成長します。
さまざまな成長方法が提案されていますが、問題はそのコスト。従来、鉄などの金属が触媒として利用されてきましたが、長繊維化や大量生産のためには成長を手伝う触媒のコストを下げる必要があります。
アメリカのライス大学とイギリスのスウォンジー大学の共同研究チームが目をつけたのが、新聞紙。古新聞紙を触媒にすることで、カーボンナノチューブへの成長が可能になりました。ただカーボンナノチューブといっても、多層構造をもつものや内部にフラーレンが入ったものまでさまざま。
共同研究チームが成功したのは、単層構造のカーボンナノチューブの成長です。古新聞紙ならリサイクルにもなりますし、コストも抑えられるので一石二鳥です。