若返りの秘訣はスンドメにありました。

英国バブラハム研究所(The Babraham Institute)で行われた研究によれば、2007年にノーベル賞を受賞した山中伸弥博士らによって発見された「山中因子」を利用することで、53歳の皮膚細胞の年齢を23歳の状態に若返らせることに成功した、とのこと。

若返った皮膚細胞は肌にハリとツヤを与えるコラーゲンの生産能力が回復しているだけでなく、傷の再生能力も上がっていました。

この技術が応用できれば、人類は本当の意味での「若返りの薬」を手にすることができるでしょう。

しかし、いったいどうして「山中因子」で皮膚細胞が若返ったのでしょうか?

研究内容の詳細は2022年4月8日に『eLife』に掲載されました。

目次
山中因子による幹細胞の若返り
幹細胞化を「スンドメ」した皮膚細胞が30歳も若返っていた

山中因子による幹細胞の若返り

53歳→23歳 皮膚年齢を30歳巻き戻す「若返り技術」を開発
(画像=幹細胞化で細胞が若返ることが知られています / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

老化研究の第一人者として知られるハーバード大学のシンクレア教授はかつて「老化は病気」であり、原理的には「治療が可能である」と著書で述べています。

老化の本質はDNAの劣化やメチル基などの化学物質の付着であるために、何らかの方法でDNAの修復を行うことができれば、老化を逆転させることが可能だからです。

DNAの修復手段として最も有力と考えられているのが、幹細胞技術です。

日本の京都大学の山中伸弥博士らは、皮膚などの体の細胞を幹細胞に再プログラムする効果がある「山中因子」を発見し、2007年にノーベル賞を受賞しました。

山中因子に接した細胞は幹細胞化を起こし、どんな臓器の細胞にも変化できる万能性を持つことができるようになります。

注目すべきは、この幹細胞化が起こるとき、細胞にある種の「若返り」が起こるという事実です。

山中因子により万能性を獲得した幹細胞は、細胞の寿命にかかわるテロメアの長さや酸化ストレスが回復しており、加齢にともないDNAに付着したメチル基も洗い流されて、若返りが起きていたのです。

しかし山中因子による細胞の若返りには幹細胞化を経る必要があるため、そのままでは不老不死の薬にはなりません。

たとえ人間の体を一気に幹細胞化する方法があったとしても、できるのはただの幹細胞の巨大な塊であり、そこには皮膚も神経も筋肉もありません。

幹細胞化によって細胞の年齢は若返るかもしれませんが、もはや人間とは言えないでしょう。

この問題を解決するには、幹細胞化した細胞を皮膚や臓器などの細胞に再変化させ、パッチワークのように少しずつ古くなった細胞と置き換える必要があります。

(例:体の細胞を採取➔幹細胞化する➔皮膚細胞や心筋細胞に再変化させて体に貼る)

そして現在の再生医療では、この再変化を経る方法が主流となっています。

ただこの方法は複数の手順を必要とするため、費用も高額になってしまします。

そこで今回、ハブラハム研究所の研究者たちは細胞が完全に幹細胞化することなく、若返りの恩恵だけを得る方法を考案しました。

研究者たちはいったいどんな方法で幹細胞化を避けて若返りだけを起こしたのでしょうか?

幹細胞化を「スンドメ」した皮膚細胞が30歳も若返っていた

53歳→23歳 皮膚年齢を30歳巻き戻す「若返り技術」を開発
(画像=「すんドめ」で30歳若返る / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

幹細胞化を避けて若返りだけを起こすにはどうしたらいいか?

答えは「山中因子」の短期的な運用による幹細胞化の「スンドメ」でした。

山中因子を使って幹細胞化を行うには通常、体の細胞を50日間、山中因子に漬け込む必要があります。

研究者たちはこの日数を短縮した場合、完全な幹細胞化を経ずに若返りのみを起こせると考え、実験を行いました。

調査にあたっては53歳の被験者から皮膚細胞を採取し、さまざまな期間で「山中因子」に浸し、皮膚細胞としての機能を維持できる範囲での若返りの限界を調べました。

すると、皮膚細胞を13日間だけ「山中因子」に浸した場合、皮膚細胞としての機能を維持したまま、30歳ぶんの若返りを起こせることが判明します。

人間のDNAは加齢にともないメチル基が付着していき、メチル基が過剰に付着した遺伝子は不活性化され、細胞内部のmRNAのバランスが崩れていきます。

(※具体的には、老化によって、細胞の年齢を示すエピジェネティッククロックが変化し、mRNAの構成バランスを示すトランスクリプトームが乱れていきます)

しかし「山中因子」を使って幹細胞化の「スンドメ」を行ったところ、皮膚細胞としての機能を維持したまま、メチル基の付着パターンやmRNAのバランスが53歳のものから23歳前後のものへ変化していたのです。

この結果は、幹細胞化の「スンドメ」が皮膚細胞に遺伝子レベルで30歳の若返りを起こしていることを示します。

また、お肌にハリとツヤを与えることが知られているコラーゲンの生産能力を調べたところ、若返った皮膚細胞ではコラーゲンがより多く生産されていることが判明します。

さらに若返った皮膚細胞を培養して作った疑似的な皮膚シートに傷をつけてみたところ、若返っていない細胞から作られた皮膚シートに比べて、塞がるスピードが上がっている様子が観察されました。

(※線維芽細胞の傷への移動が速くなっていました)

これらの結果は、幹細胞化を「スンドメ」された皮膚細胞は機能の面においても、若返りを起こしていることを示します。

研究者たちは実験結果から「細胞がその機能を失うことなく若返らせることができることを証明した」と述べています。