BRICSとAIIBにも注視

多国間主義から見ると既にある程度ウクライナ危機の影響はBRICSの国々に波及しており、BRICS銀行―新開発銀行(NDB)―は、「不確実性を広げ規制を緩める」との理由からロシアでの取引を停止させられた。しかし、それ以上に、ロシアの侵略はBRICSが長年築き上げてきた協力と結束にとって真の試練であることに疑う余地はない。

今のところ、ブラジル、南アフリカ、インド、中国の全てが国連の対ロシア非難決議を棄権している。ブラジル、南アフリカ、インドはそれらが堅持してきた中立的な立場に、また中国はロシアへのより融和的な姿勢にそれぞれ従ったかたちだ。しかし、この状況が落ち着いた時にBRICSが統一的な行動をとれるかは不透明だ。より重要なことはおそらく、BRICSが結束して途上国の諸課題を解決するというBRICSの戦略をウクライナ危機が妨げてしてしまうことだ。

アジア・インフラ投資銀行(AIIB)の出方も注目する必要がある。3月上旬に発表された声明でAIIBは、国際法は重要だとして、ロシアとベラルーシに関係する全ての活動を停止し見直すと発表した。興味深いことに、ロシアは中国、インドに続いて3番目のAIIB出資国である。それ故、ロシアの侵略に対しては多国籍組織も行動すべきだとの圧力が、印露中間の関係、更にはAIIBの中立原則に勝ったことになる。

難しい舵取り

中国の王毅外相は張明・上海協力機構(SCO)事務局長に対して、機構は「ウクライナ危機によって生じたいろいろな推測の中で、もっと積極的な行動を取るべきである」と述べた。

ロシアが2008年にジョージアで行動を起こした際、タジキスタンで開催されたSCO首脳会議で支持を得ようとしたのに対し、中国政府はこれを阻止しようとしたが、今回は対照的である。プーチンはウクライナ情勢を巡るSCO加盟国の取り組みは「同一もしくは同様」であると、ロシアの立場への理解を称賛した。

西側はロシアに制裁を科したが、SCOに加盟しているユーラシアの同盟国に目を向ければ、それはロシアを支援する道であるとロシアと中国には映る。従って、SCO開発銀行設立のような動きが今後模索されることになるかもしれない。

インド政府は、SCOを中央アジアとの関係強化の手段というよりも、アジア全体に関与する手段とみなしている。長年共有してきた安全保障上の利益として、インドは「ルック・ノース(北を見る)」政策や「中央アジア連接政策」を発展させてきたが、これらが「アクト・イースト(東へ活動する)」政策より重要であるとは言えない。

パキスタンとインドはSCOの正式な加盟国になったが、SCOの方針は中露両国によってほとんど決定されている。その方針とは、中央アジアの発展を通じてロシアの孤立を緩和することである。これは必ずしもインドが望む方向ではないが、ロシアがインドの戦略立案に影響を及ぼす大国であることには変わりなく、今後も様々な要因に左右され続けるだろう。

対ロシア制裁と印露関係の将来(ジャガンナート・パンダ)
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

ジャガンナート・パンダ
マノハール・パリカル国防研究所東アジアセンターセンターコーディネーター兼リサーチフェロー。専門は、中国とインド太平洋安全保障関係、特に東アジア、日本、中国、朝鮮半島。イギリスの出版社ラウトリッジのRoutledge Studies on Think Asiaの編集者でもある。2018—2019年にかけて日本財団と韓国財団フェロー。日中韓シンクタンクダイアローグのthe Track-II、Track 1.5にも参加。インド国際法外交学会より、2000年にV. K. Krishna Menon Memorial Gold Medalを授与される。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2022年3月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。

文・日本戦略研究フォーラム(JFSS)/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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