大腿部を前面から見たときによく目立つ筋肉があるはずだ。それはまるで太い綱のような筋肉で、骨盤の外側から膝の内側まで伸びている。実はそれが縫工筋なのである。縫工筋が際立っているかいないかで、脚の完成度は大きく変わると言っていいだろう。今回はその縫工筋に焦点を当ててトレーニングのやり方や見せ方を解説していくことにする。
今日は脚のワークアウト日だ! この言葉に喜びを感じるボディビルダーはどれくらいいるだろうか。たぶん、ほとんどのトレーニーにとって脚のワークアウト日は憂うつに違いない。理由は簡単だ。脚のワークアウトはつらいからだ。あまりのつらさに、つい脚のワークアウトを避けがちになり、その結果、上半身と下半身のバランスが崩れてしまったような体型になった人たちもいる。
脚のワークアウトは苦痛だし猛烈にきつい。しかし、それを乗り越えた先には、安定した下半身を手に入れることができ、洗練された憧れの体型を作り上げることができるのである。
初級者なら筋力と筋量を伸ばしていくことが目下の課題となる。そのためにやるべきことは基本的な種目であり、この段階でどれだけしっかりした基礎を作り上げるかによって将来が大きく変わってくる。
ただ、基本的な種目というと単調で飽きてしまいそうなイメージを持つ人もいるかもしれないが、それはとんだ誤解だ。例えばパワーリフティングの競技種目にもなっているスクワット、ベンチプレス、デッドリフトの3種目は、ボディビル界でもビッグ3として認識されている。この3種目を行うことでトレーニーは筋量を大幅に増やし、ボディビルダーらしい体型をつくり上げることができるのだ。さらに言えば、ビッグ3を単に「3つの種目」として捉えるのも間違いだ。これらの種目にはいくつものバリエーションがあり、それぞれに目的があって効果も変わってくるからだ。
ボディビルダーが目指すのはバルクだけではない
強固な基礎を作り上げることは重要だ。基礎が頑丈であれば、より多くの筋量をその上に乗せることができるからだ。また、誰にとっても太い腕、厚みのある胸や背中、球体のような肩、木の幹のように太い大腿部は憧れだろう。しかし、だからといってただサイズアップしただけの体型を目指しているという人は決して多くはないのである。
人々が目指し、憧れ、夢にまで見るのは洗練された肉体だ。例えば腕について言えば、上腕二頭筋と上腕三頭筋の境目がはっきりしていて、体脂肪が限りなくそぎ落とされたときに筋肉を構成している筋線維が皮膚から透けて見えるような筋肉をつくりたいのだ。いわゆるセパレーションやカット、ストリエーションなどがしっかり作られた状態にボディビルダーは憧れるのである。
脚の場合はどうだろう。大木のような太さだけでなく、大腿部前面を構成する大腿四頭筋の表層部にあるヘッド部分が浮かび上がっている脚は実に洗練されて見える。それらは大腿直筋、内側広筋、外側広筋などである。ちなみに、大腿四頭筋にはこの3つの筋肉の他に中間広筋というのがあるが、大腿直筋の深部にあるため体表面にその形が浮かび上がることはない。
しかし、ちょっと待ってほしい。もうひとつ、大腿部を前面から見たときによく目立つ筋肉があるはずだ。それはまるで太い綱のような筋肉で、骨盤の外側から膝の内側まで伸びている。実はそれが縫工筋なのである。
縫工筋が際立っているかいないかで、脚の完成度は大きく変わると言っていいだろう。今回はその縫工筋に焦点を当ててトレーニングのやり方や見せ方を解説していくことにする。
縫工筋とは
骨盤の外側に始点を持ち、大腿部正面を斜め下方に横切り、膝の真下にある脛骨の内側に終点するのが縫工筋だ。その形は長い一本の縄のようである。大腿四頭筋のセパレーションが明確になるぐらい体脂肪が落ちてくると、縫工筋もまた体表面に浮かび上がってくる。
縫工筋は私たちの身体の中で「一番長い」筋肉である。縫工筋(英名:サルトリウス)はラテン語のサルターに由来し、サルターには洋服屋(仕立屋)という意味がある。どうしてこの筋肉が洋服屋を意味する言葉に語源を持つのか。その理由はおそらく、仕立屋が服を縫うときに、床にあぐらをかいて座るからであろう。あぐらをかいた姿勢、すなわち脚を交差させると、縫工筋が緊張する。そして、この姿勢が長時間保たれると縫工筋の周辺に痛みが起きるようになるのである。
縫工筋の機能は股関節や膝関節を動かすことにある。ただ、脚の種目で縫工筋が主動筋になることはほとんどなく、大腿四頭筋などを補佐する協働筋として多くの種目で縫工筋も間接的な刺激を受けている。