もう30年ほど前になるだろうか。筆者が観光で訪れたハワイで「ロスドレス」という低価格ファッションを扱うチェーン店と出会った。そのお店で「掘り出し物」を見つける楽しさに目覚め、ハワイにある何件かの店舗をハシゴしたものだ。ちなみに、当時の日本といえばバブル絶頂期、高級ブランドこそが至高で低価格ファッションを「ダサい」とバカにする風潮さえあったが、筆者はロスドレスで体験した「ワクワク感」こそがショッピングの醍醐味であると考えている。

しまむら <8227> の店舗にはどことなくロスドレスの雰囲気を彷彿とさせるものがある。低価格、少品種の品揃えで「掘り出し物」を探す喜びがある。その「ワクワク感」はまさにロスドレスの体験そのもの。筆者は、ファッションセンターしまむらが大好きだ。

しまむらは「デフレの勝ち組」として業績を伸ばし、株式市場でも人気銘柄の一つだった。注目されるのは、同社が9期ぶりの減収減益となる中で株価は急騰、年初来高値を更新したことだ。

「え? 減収減益なのに急騰?」と思われる読者もいるかもしれないが、それが株式投資の面白いところでもある。筆者はしまむらの株価急騰は、ずばり「ユニクロ」との全面戦争へ向けた号砲ではないか、と考えている。詳しくみてみよう。

アパレル業界の「頂上決戦」が迫る!?

しまむらは1953年に創業し、1997年には出店数(アベイルなど他業態を含む)で500店舗を超えている。つまり、500店舗超えに44年かかっているのだが、その後2003年までの6年間で1000店舗を突破、さらに2008年までの5年間で1500店舗を達成するなど店舗数を加速度的に増やしてきた。ただ、その後2000店舗を突破するのに8年(2016年)を費やしており、ややスローダウンの印象は否めない。

しまむらの売上は2000年2月期の2599億円から2018年2月期の5651億円まで2.2倍、本業の利益を示す営業利益は同126億円から428億円まで3.4倍になった。アパレル業界の売り上げではユニクロのファーストリテイリング <9983> に次ぐ業界2位にまで成長しているのだ。

あくまで筆者の個人的印象であるが、ユニクロの都会的で洗練されたイメージに対し、しまむらの魅力はちょっと垢抜けないデザインや派手な色使いの「田舎のヤンキー臭」ともいえるテイストにある。好みは人それぞれだろうが、しまむらの「田舎のヤンキー臭」にどこか懐かしい魅力を感じるのは筆者だけではないはずだ。そして、そんなアパレル業界で双璧をなす2社の「頂上決戦」が迫っていると筆者は考えている。

デフレの終焉で既存店は伸び悩み

今年、日経平均は26年ぶりにバブル崩壊後の高値を付けた。デフレ期に生活必需品の値上げはほとんどなかったが、2017年には普通切手、宅急便、ビールなどが数10年ぶりに値上げされた。デフレの終焉ムードは着実に広がっている。

株式市場でもその影響は顕著だ。しまむらや100円ショップのセリア <2782> 、安くて美味しいラーメンチェーンの幸楽苑ホールディングス <7554> といった「デフレの勝ち組」の既存店売上のスローダウンが顕著になってきた。その一方で、百貨店など「デフレの負け組」の既存店売上がプラスに転じつつある。

しまむらの既存店は2016年度の1.1%増から2017年度は3.0%減に転じた。2017年度の上期は1.5%減。下期は2.5%減。そして、2018年度入り後の3月も5.6%減と低迷している。

先週4月2日に発表した前2018年2月決算は、既存店の減速傾向を受けて売上が0.1%減の5651億円、営業利益が12.1%減の428億円と9期ぶりの減収減益だった。事前の会社予想が売上5930億円、営業利益が512億円でともに予想を下回っている。

なぜ、しまむらは「デフレ終焉」でも強気なのか?

そうした中で、しまむらの株価が急騰したのはなぜか。きっかけは前期決算と同時に発表した今2019年2月期の「新予想」だった。それによると売上は4.0%増の5875億円、営業利益は18.9%増の510億円と2期ぶりに過去最高益を更新する見通しである。さらに同社は前期の配当を10円増配の240円に、今期も240円の配当を継続することも発表してきた。

ちなみに、今期の営業利益予想はアナリストのコンセンサス(446億円)を大きく上回るものだ。しまむらが示した強気の「新予想」は株式市場にサプライズをもたらし、翌3日には1.6%高に上昇、さらに4日には4.9%高の1万4250円と急騰したのである。

それにしても、なぜ、しまむらは「デフレ終焉」でもこれほどまでに強気なのだろうか?

ユニクロとの「覇権争い」が始まる?

しまむらの強気予想の背景にあるのは、積極的な出店計画だ。たとえば「しまむら」業態は、前期40店舗出店し期末で1401店舗に達した。第2ブランドの若者向け「アベイル」は、前期12店を出店し313店舗となった。第3ブランドの子供・ベビー服の「バーズデイ」は前期23店舗を出店し261店舗となっている。

しまむらは、もともと「1万2000世帯程度の小商圏」を前提としたコンビニのようなドミナント戦略で出店数を伸ばしてきた。ただ、ここ数年は大都市圏への進出、ショッピングセンターへの出店などを成長戦略の要としている。若者向け「アベイル」などしまむら以外の業態については、商圏エリアを2万世帯と大きく設定している。しまむらの目標は2020年度に全業態で国内3000店舗だ。今年の新規出店は、しまむら業態は都市部を中心に40店、アベイルは25店、バースデイ25店など100店舗程度となる予定だ。

ちなみに、ファーストリテイリングはユニクロより安いレンジの第2ブランド「GU」でしまむらの市場に乗り込んできた。これに対して、しまむらは「アベイル」で真っ向から勝負する構えだ。しまむらも「出店比率」でいうとアベイルやバースデイの比率が高くなっている。今まではチラシ中心の販促でECにも力を入れておらず、広告にも地味なイメージがあったしまむらであるが、前期からTV広告やWebでの販促にも取り組んでいる。そして、今期は楽天やZOZOTOWNなどへの出店でECにも本腰を入れる見通しである。

「田舎のヤンキー臭」が消えてしまうのか?

さらに、しまむらは今後の採算改善に向けてPB(プライベートブランド)も拡充するという。今年は自社ブランド「クロッシー」の美シルエット「スタイルアップパンツ」という洗練されたPBジーンズを投入した。

今年2月、しまむらでは13年ぶりに社長が交代した。北島常好新社長の体制のもとで「デフレの勝者」から「小売の勝者」に羽ばたこうとしているのだろう。そのためにも、ユニクロとの「覇権争い」に負けるわけにはいかない。先週の株価急騰は、そんなしまむらへのたくさんの投資家のエールであり、文字通りユニクロとの全面戦争に向けた号砲のように筆者には感じられるのだ。

ただ、筆者としては、しまむらの魅力である「田舎のヤンキー臭」が消えてしまうのではないか、との懸念もある。スタイリッシュにイメージチェンジしたしまむらなど、とても想像できない。だが、これも時代の流れ、しまむらの「ユニクロ化」は避けて通れないのだろうか?

文・ZUU online編集部

 

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