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コロナ禍で過ごした約3年間の変化とニューアルバム
「失敗できる場所」、それこそが僕にとっての隠れ家
コロナ禍で過ごした約3年間の変化とニューアルバム

ライブができない期間は制作がほとんどでした。僕は自分の仕事場を作っていたので、人に会わなくてもプロユースの機材で仕事ができる環境は一通りあるんです。ほぼ仕事がないというのも久々で、曲作りと書き物くらいしかなかったので集中できました。結果的には体も休まりましたね。
メンバーとのコミュニケーションは昔より上手になったかなと思います。お互いにですけど、それぞれの良さを活かすというか。コロナで集まりたくても集まれない時期があったので、バンドとはいえ少人数で集まれることの喜びも感じたし、人と一緒にモノを作るのって当たり前ではなかったなって。
歳を重ねて、みんなある種の“丸み”みたいなのものを帯びたところはあるんだけど、でも仲間への思いやり方が少しずつ上達しているのかなっていうのは感じます。結びつきが強くなっているというか。外から見て具体的に何が仲良くなったというわけじゃないんですけど、ただ「なんか結びつきが強いよね」っていう。あとは3年あれば、3年分の技術の進化や進歩はあるかな。でもそれはどんな職業にでも当たり前にあるんだろうなぁと思いますけどね。
『プラネットフォークス』の制作については、シングル曲がたくさんあるのでアルバム1枚としてまとめるのが難しいだろうなぁとは思っていて、区切るつもりで考えましたね。レコードにすることを“出口”って考えると、曲順が見えてくるというか。2枚組のLPで考えれば、16曲でも4曲ずつで表面と裏面で区切れるじゃないですか。だから4曲ずつ区切ったミニアルバムが4枚入ってるみたいな考え方をしていくと、最後にまとめやすいよなって。メンバーにはバラエティに富んでいいんだよ、最後にまとめるアイデアはあるから大丈夫、という話をしながら進めました。
本当はアルバムって一つの色で押し切るイメージで毎回作ってるんですけど、今回のアルバムに関してはシングル曲も多いし、そういうことをしないで形にできたらいいんじゃないかっていう話をみんなにしましたね。
5月からはツアーが始まりますが、良い状態でライブができるんじゃないかなって思います。これまで観たことがある人にも「あぁアジカン、今状態が良いんだな」って感じてもらえるような雰囲気だと僕は思っています。アルバムもツアーも気が向いた方は聴いて欲しいし、観に来ていただければありがたいですね。
「失敗できる場所」、それこそが僕にとっての隠れ家

結局、音楽に繋がっちゃうんですけど、僕、無趣味で出不精なんであんまり外出しないんですよね。いつも大体自分のスタジオ「コールド・ブレイン・スタジオ」にいて、そこが隠れ家です。入り浸ってます。自宅とは別で仕事場として独立して作ったので、そこへ行って仕事したり、レコードを聴いたり。とにかく“そこ”が有ると無いとでは、自分の人生が変わってしまうくらい大事な場所ですね。
スタジオまでの移動手段は車、自転車、スケボーの3パターンですかね。でもスケボーは気候に左右されます(笑)。自宅からは歩いたら20分くらい、自転車なら10分、スケボーは15分くらいかなぁ。その日の気分で移動してます。寒い日や雨の日、機材を運ぶときは車で行きます。
最近のスタジオでの癒し時間はハンダですね。ハンダゴテを使ってケーブルを作るんですよ。巻きで買ったすごい長いコードを切ってハンダで溶接して、マイクケーブルとかギターケーブルを作ってます。自作する理由ですか? 単純に自作した方がちょっと安かったりとか、あとは楽しい。自分の好きな長さで作れるのも利点ですよね。日曜大工とかDIYが好きな人も多いと思うんですけど、僕のスタジオもそれに近い感じで作ったので。最初に工事は入ったけどなるべく業者の手は入れず、床から吊ってある吸音パネルなんかも自分でホームセンターに行ってワイヤーや板を買ってきて作業したりして。そういうのも楽しいです。
今年でちょうどスタジオを構えて10周年なんですけど、最近は環境が整いすぎちゃってギターのレコーディングからみんなスタジオに来ますね。ギタリストの喜多くんやエンジニアが来て、歌もそこで録りますし、自分ひとりで録って納品もできますし。バカでかくてタイヤが付いた機材が置いてあったり、コンソールっていう色んなツマミがついた機材が入っていたりして、それこそドラムの録音以外は全部できるスタジオなんです。
10年前の何もなかった頃の写真と比べると感慨深いですね。「わぁ散財してる!」みたいな。とはいえ機材って良いものほど、値段が落ちないんですよね。だから全部、資産になるっていう。なんか失敗したら最悪売れるっていうのは安心かな(笑)。

音楽って不思議な仕事で、仕事じゃない時がけっこう重要なんですよね。「はっ!」と思いついてからが仕事なんで、思いつくまでダラダラできるって大事なんですよ。だからそのダラダラできる場所として自分のスタジオがある。なんでもない5時間が必要で、だけど5時間も居て良い場所ってなかなかなくて、外のスタジオでそれをやると5時間分の料金を取られるんですよね、何もしてないのに。「なんにもなくていい」みたいな日があっても、それを許してくれる場所なんですよね。なんの成果がなくてもいいんですよ。
「なんか今日、意味もなくマイク片付けて終わったな」とか「なんか今日段ボールまとめて終わっちゃったな、マジで大丈夫かな俺」みたいな。でも次の日に一曲できたり、メロディが湧いてきたりとかもある。“なんでもないことをちゃんとできる場所”の有る無しは、創作においてはとても重要だと思います。“閃くとき”までのアプローチの段階で時間を無駄遣いできる場所が、とても大事なんですよね。そういう意味では「オン」と「オフ」の真ん中くらいの場所で、そこを行ったり来たりするのを許してくれるところだなぁと。
ホント理想的な場所ですよ、見つけられて良かった。20畳くらいの地下室で、カルチャー教室の残骸みたいな場所だったんですけど、壁にベニア板や音楽的なパネルを少しだけ貼るという最小限の工事で作ったんです。ただ、あんまり新しい建物じゃないから、いつかは出されるかもしれないなと戦々恐々としています。そうなったら次はどこに越そうかな……、もう田舎に引っ込んで建てるしか維持していけないかもしれない、とは思います。
ちなみにすぐ上の階はお店があって、さらにその上は人が住んでいるので夜中は音を出さないようにしてるんですけど、そのおかげで早く帰るという習慣がついて、生活が規則正しくなりました。水道管とか配管を伝って、どこかの部屋に音が響いたら悪いなと思うので、21時には終わるようにしています。そういう意味でも理想的ですよね、21時に帰る。なんならもっと早く帰ることもあるし。
スタジオを構えてこの10年はメンタル的にも煮詰まらなくなりました。ここに来たら誰にも邪魔されず自由なので。「あぁ、これダメだったわ」みたいに、自由に失敗できるのが良い。スタジオを借りて何万円も払って失敗するとダメージ喰らうんですけど、自分のスタジオは失敗が家賃に内包されている。「失敗したから、もう3万円ね」って大家さんに言われるわけじゃないんで(笑)。失敗できる場所があるって、クリエイターにとってすごい大切なことだと思います。
<作品情報>
10thアルバム『プラネットフォークス』

2022年3月30日発売。
初回生産限定盤(CD+Blu-ray)4950円、通常盤(CD)3300円。
結成25周年を迎えたASIAN KUNG-FU GENERATION待望の10thオリジナルアルバムで、劇場版『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』の主題歌である「エンパシー」や、同作品の挿入歌「フラワーズ」、TVアニメ『どろろ』OPの「Dororo」、羊文学の塩塚モエカが参加し話題となった「触れたい 確かめたい」などの先行シングル曲を含む計14曲収録。
初回生産限定盤には2021年11月にBillboard Live TOKYOにて開催された「ASIAN KUNG-FU GENERATION 25th Anniversary Tour 2021 “Quarter-Century” at Billboard Live TOKYO」の模様が特典Blu-rayとして付属。映像にはメンバーによる特別オーディオコメンタリーもあわせて収録される。
また、2022年5月28日、埼玉県「三郷市文化会館 大ホール」を皮切りに、アルバムを携えた全国ツアーも開催される。前半16公演の情報が公開中で後半については後日、発表される。詳細は以下、ホームページにて。
文/田村 巴 撮影/池本史彦
提供元・男の隠れ家デジタル
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