地域性を守るための老舗再生チャレンジは続いていく
その後、味噌屋に続いて任されたのは、老舗の漬け魚店の小川屋だ。
「当初、小川屋の価値を見出すことはできなかった」と語る葉葺氏。ただ一点、「地域のために店を守りたい、再生したい」という想いははっきりと描いていたという。
「古くからその町に根付いてきたその店そのものが、地域にとっては大きな価値だと思っている。伝統ある老舗店がなくなることは、地域らしさがなくなるということになる」。
ライフスタイルの変化で、お中元・お歳暮の贈答需要が減少。人口減少も拍車をかけ、小川屋の売上は20年に渡って減少続きだった。お客様に貢献できることがはっきりとはしない中、昔からのロゴから洗練されたモダンなデザインに変更したところ、地元客から想像以上に反響があった。さらに、今までは比較的高価格帯の「贈答需要」が中心だったが、「自家需要」を狙った新商品を加えたところ、それが大きな要因となり、売上減少に歯止めをかけることに成功した。

コロナ前の売上を上回る好調を維持する峰村商店
峰村商店の社長を兼任する葉葺氏のコロナ渦での対応にも注目したい。
観光味噌蔵として人気を集めるまでになっていた峰村商店は、コロナ前は来店客の4割は観光客。県内のお客様にはイベントを多数うつことで売上を確保していた。
コロナ以降は、観光客が激減。密につながるイベントも開催できない状況となった。そこで、「県内の新しいお客様に来ていただくしかない」と考えた葉葺氏は、速やかにさまざまな施策を打った。
集客のために、顧客リストを活用して会員にDMを送付。新規のお客を呼び込むために、県内の広範囲にSNSやチラシ等を使って告知したところ、大きな反響があった。
観光客向けに高価格帯の商品がメインだった点を改め、中価格帯、中価格帯より少し下の価格帯と商品ラインナップを増やした他、社員からもさまざまなアイデアを募ることにした。
「無理だと思う提案も、お客様に一番近い現場スタッフがいうならとすべてやった」。

「コロナ前に人気だったイベントに、“30秒味噌盛り放題”というものがあった。コロナ禍でこうしたイベントの実施が難しくなったが、その代わりの企画として、ビニール袋に味噌を入れて販売したい、とスタッフがいた。味噌をお客様自らが盛る楽しさに価値があると思っていた私も工場長も乗り気ではなかったが、実際やってみたら大ヒットとなり驚いた」。
そんな氏に老舗再生の秘訣について尋ねてみると、「何か特段新しいこと、珍しいことをしているわけではない」という。お客に最も近い現場の企画・発案に耳を傾け、従来の当たり前を当たり前にせず、徹底して貫いたのは、『自社で提供できる価値を、必要としている人に届ける』というコンセプトだ。実にシンプルだが、マーケティングの基本に徹してきたことがコロナにめげず、売上を伸ばしてきた秘訣なのかもしれない。
提供元・DCSオンライン
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