市場規模の縮小が続く伝統食品の領域において、新潟の老舗企業を次々と再生させてきた和僑商店ホールディングス。日本酒、味噌、漬け魚という新潟伝統の発酵食品に着目し、老舗企業4社の再生を指揮してきたのが和僑商店ホールディングス代表取締役の葉葺(はぶき)正幸氏だ。コロナ禍でも売上を大幅に伸ばしている会社もあるなど、その経営手腕が注目されている。老舗再生の秘訣はどこにあるのか、話を聞いた。

おにぎり屋から老舗再生のスペシャリストへ
1767年創業の日本酒醸造の今代司酒造をはじめ、味噌醸造メーカーである峰村商店と越後味噌醸造、漬け魚製造の小川屋を次々と再生へと導いた和僑商店であるが、もともとはおむすび屋からのスタートだった。
飲食業の経験、バックグラウンドを一切持たなかった葉葺氏が、ある時会社(NSGグループ)から東京でおにぎり屋を出すことをミッションにされた。当時は何の知識もないまま、おにぎり屋の門を叩き、教えを乞いかけずり回った。そうした中、業績の低迷が続いていた東京・銀座のおむすび屋「銀座十石」の店主に目をかけられ再生を託された。その期待に応えるべく、這いずり回った結果、新たなスタイルのおむすびや仕出し弁当を製品化し、軌道に乗せることに成功した。

その後、お米と相性の良い素材を探す中で「糀」と出会い、この素晴らしさを世に問い直すべく、葉葺氏の生まれ故郷である新潟の地に日本初の糀ドリンク(甘酒)専門店「古町糀製造所」を立ち上げることに。すると、伝統を今のかたちに置き換えた表現手法が功を奏し、糀・甘酒ブームの一翼を担う存在となる。その取り組みが注目され、新潟伝統の発酵食品の老舗企業の再生を任されることとなった。
順風満帆に聞こえるが、おむすび屋立ち上げまでの道のりは険しかった。ただ、その経験がコロナ禍となった今強く生きているという。
「おにぎり屋で苦労した経験があるから、コロナという苦境も絶対に乗り越えてやると強く思っている」と語る葉葺氏。
コロナによる消費者の購買行動の変化に伴い、もはや食品を扱う企業であってもECを避けては通れなくなった。そうしたなか、ECを成功させる突破口や、和僑商店の強みでもある発酵技術を使って商品開発できそうなことも新たに見えてきた。「コロナをきっかけにまた“技”が増えたことによって、今後事業再生はかなりスピーディに進められるだろうと手ごたえを感じている」。
酒蔵再生のための新たなターゲットは、「日本酒を飲まない人」
この1、2年は、コロナ禍の対応に注力してきた葉葺氏だが、それより以前までは老舗企業の事業再生を次々と成功させてきた。その秘訣とはずばり何なのか。
葉葺氏は、「振り返ってみると小売の仕事って実はシンプルで、自社で提供できる価値を、必要としている人に届けること」と言い切る。「その価値をどう見つけるか。売れている商品には必ず理由があるはず。なぜ売れているのか?コアな部分を引っ張り出してくる、それが価値を見つけることになる」。
そうはいうが、最初に事業再生に関わることとなった今代司酒造の再生に着手した当時、「今代司だからこそ提供できる価値」を見出すことはできなかったという。
昔の今代司酒造を知る人のイメージは、「今代司の酒を飲むと、頭が痛くなる」というもの。そもそも日本酒のシェアは、ビール、ワイン、焼酎とさまざまなアルコール商品がある中、わずか8%だった。そこに、1500社もの酒蔵がしのぎを削る。そこで、再生のために葉葺氏が設定した新たな今代司のターゲットは、「日本酒を飲まない人」だった。
「伝統や発酵技術など、日本酒にまつわる神秘性そのものがお客様にとって憧れ。これこそが、日本酒がお客様を惹きつけるコアな部分であり、価値となると考えた」。
今代司酒造そのものではなく、今代司の中で「日本酒、酒蔵の世界観」にフォーカスして表現し、日本酒はそれほど飲まないが日本酒の世界観が好きなライトユーザーの取り込みを狙った。

「新たな顧客層を開拓するために、ラベルや酒蔵の売店、見学通路を“和モダン”で統一し、イメージを一新した。とはいえ、うわべのデザインを変えたからといって簡単に売上が上がるわけではない。ダメになった酒蔵が良くなる共通点は、“古い酒”を出し切ったときという共通点があることに気づいた。思いきって大幅に酒の製造を減らして、古い酒を出し切ったタイミングで新しいデザインを投入した」。
酒そのものの品質を上げていく努力は当然ながら、新しくなった酒をベースに多様な商品開発も進めた。酒蔵見学目当ての観光客の呼び込みも成功し、見事に売上が上がっていくこととなった。