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刑務所で数学を学び、論文発表までした囚人の話。何事も始めるのに遅すぎることはない!
(画像=Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

今年のはじめ、数学の学術雑誌『Research in Number Theory』に連分数について書かれたある論文が掲載されました。

筆頭著者はChristopher Havensとなっています。

彼は大学の研究者でしょうか? 優秀な大学院生でしょうか?

いいえ、彼は高校中退者で、麻薬中毒者で、仕事もなく、家庭もなく、最後は殺人まで犯してしまった人物です。

ヘイブンズは、2011年に殺人罪で25年の刑が下り、ワシントンの刑務所に現在も服役しています。

ヘイブンズは刑務所の中で数への才能を開花させ、勉強を続けてついに獄中で数論の論文を書き上げ、査読付き国際ジャーナルに掲載までされたのです。

何を始めるにも遅すぎることはない、といいますが、こういう成果を聞くとなんだか希望が湧いてきます。

数学の先生を探しています

刑務所で数学を学び、論文発表までした囚人の話。何事も始めるのに遅すぎることはない!
(画像=ヘイブンズから届いた手紙。/Credit:the conversation、『ナゾロジー』より 引用)

彼が見出されるきっかけになったのは、出版社に届いたヘイブンズからの手紙でした。

関係者の皆様へ、個人的に「Annals of Mathematics」を購読する方法について知りたいのですが、どうすればよいでしょうか? 私は現在、ワシントン州矯正局に25年服役していますが、この時間を使って自分を磨きたいと考えています。今は微積分と数論を勉強しています。数学雑誌の情報を送ってくれませんか? クリストファー・ヘイブンズ

また追伸としてヘイブンズは、独学ではどうしても1つの問題に長時間つまづくことが多いため、数学の相談ができる人を紹介して欲しいということも書いていました。

この手紙を同僚から見せられた「Mathematical Sciences Publishers」という数学出版社のマシュー・カーゴ氏は、、イタリアのトリノ大学教授で数論を専門とする自分の父親を、このヘイブンズに紹介することにしました。

マシューの父、ウンベルト・チェルッティ氏はヘイブンズの助言者になることを承諾。しかし、数に魅せられて欠陥のある理論を生み出す数多くの人々を見てきたウンベルト氏は、ヘイブンズが本気で数学を学んでいるのか試してみることにし、ある問題を彼に送りました。

ヘイブンズからの返答は、繋げれば120センチメートルにもなる複雑な数式の書かれた長文の手紙でした。

ウンベルト氏はこれをパソコンに入力して検証して見ましたが、彼の計算は正解でした。

1日10時間に及ぶ勉強

感心したウンベルト氏は自らも取り組んでいる連分数の問題をヘイブンズに紹介し取り組むように促しました。

連分数というのは、分母がさらに分数になって、延々と続いていくような分数をいいます。

円周率などの無理数は、小数点以下が延々と続いていきますが、これを連分数で表した場合、整数のみを使って表現できるシンプルで美しい表現になります。

刑務所で数学を学び、論文発表までした囚人の話。何事も始めるのに遅すぎることはない!
(画像=円周率の連分数。/Credit:en.wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

ここから9年間、ヘイブンズは1日に10時間近くを勉強に費やしたとそうです。また、刑務所なので、基本的に彼は紙とペンだけを使って問題に取り組みました。

刑務所ではインターネットの接続も禁じられている場合が多く、ヘイブンズの研究は手書きの用紙を画像で取り込んで、イタリアにいるウンベルト氏のもとへ転送されました。

ウンベルト氏はヘイブンズに多くの書籍も送りましたが、刑務所の認可の業者でなかったため、受け取ることができず、刑務所スタッフと協力し、数学を学ぶプロジェクトを発足させて、閲覧の許可を受けたとのこと。

そして、2020年1月、「Research in Number Theory」にヘイブンズの数論の論文が掲載されるに至ったのです。

その内容は多くの近似した連分数で規則性が見られることを初めて示したものだといいます。

数論のテーマはすぐに世の中に役立つような種類のものではありませんが、例えば暗号技術や金融などの発展に、数論は欠かせない存在となっています。

彼の研究が今後、大きな発展に寄与する可能性も十分あるのです。